きのうのMarket Talkでは、いったんマーケットが大きくクラッシュすると一発で底が入ることはなく、必ず2番底を探りにいくのがマーケットの常であると述べた。視聴者からの質問に答えたものだが、日経新聞にもそんな話が書かれていたので視聴者も気になって質問してきたのであろう。但し、僕の答えには続きがあって、重要なポイントは今回の下げはその「大きなクラッシュ」に相当するか?ということだ。

これだけ大騒ぎになった世界株安である。「大きなクラッシュ」に決まっているではないか、と思われるだろう。確かに、NYダウ平均は1日の下落が1100ドルを超える史上最大の「下げ幅」を記録した。しかし、株価水準も史上最高値にあるだけに、「下落率」でいえば5%の下げであり歴代ワースト20位にも入らない。

そもそも米国株急落の理由すらいまだに明らかになっていない。<雇用統計で時間当たり賃金が2.9%という8年ぶりの高い伸びとなったことでインフレ懸念が台頭、長期金利が急上昇して株価急落を招いた...>という巷にあふれる説明がいかに間違っているかは散々述べてきた。

誤解1 賃金上昇は加速していない
賃金が前年同月比で2.9%増となったのは寒波による労働時間の減少という特殊要因であり、賃金上昇ペースが加速しているわけではない。

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週の平均給与(Average weekly earning)を週平均労働時間(Average weekly hours)で割ると時間当たり賃金(Average hourly earnings)が求まる。1月は週の平均給与が917.18ドルと前月から2.25ドル減っているにもかかわらず、労働時間が前月の34.5時間から34.3時間に減ったため時間当たり賃金に直すと、917.18÷34.3=26.74ドルと時給は増加したというだけのことである。

これと同じことは昨年9月のハリケーンの際に見られた。来月発表される2月の統計で労働時間が戻ればどうなるか。11月12月はともに34.5時間だったが、そこまで戻らず34.4時間に戻ると仮定する。前年1月も34.4時間だった。週給は1月と同じく前月比0.3%、前年同月比2.6%増の920.13ドルと仮定すると、時間当たり賃金は26.75ドルである。仮にこの数字がでれば賃金は前月比変わらず、前年同月比でも2.6%増と上昇ペースが鈍化することになる。

誤解2 長期金利の上昇が急落の原因ではない
この点は、2/6付のレポートで詳しく述べているので、ご参照ください(「緊急レポートPART2 米国株急落の理由は金利上昇ではない」)。

論より証拠、グラフを見ていただくのが手っ取り早い。

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米国の10年債利回り(オレンジ)が底を打って上昇に転じたのは昨年9/7である。そこからずっと上昇している。米国長期金利が上昇するなか、ダウ平均(紺)も一本調子に最高値を切り上げてきた。金利が底をつけたのとほぼ同時に22,000ドル台に乗せると、10月に23,000ドル台、11月末には24.000ドル台と大台替わりが続く。そこから年初に25,000ドルをつけるまではわずか20営業日余り。26,000ドルへの大台替わりはわずか8営業日だった。

くどいが、この間、ずっと金利は上昇している。2.7%までなら耐えられて、2.8%になったら耐えられないという根拠はない。事実、その後も長期金利は上昇を続け足元では2.9%台にまでなっている。それにもかかわらず米国株は5日続伸である。ナスダック総合に至っては、1/26の高値からこの急落でつけた安値までの下げ幅の3分の2を取り戻している。

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景気も業績も好調な中で起きた株価の急落だ。単なるスピード調整に過ぎない。

米国長期金利が底打ちしたのは昨年9/7だと述べた。まさにその翌日から日本株のラリーが始まったのである。9/8が日経平均16連騰の新記録を打ち立てた昨年秋の上昇相場の起点だが、それはまさに米国長期金利が底打ちしたタイミングである。日本株は米国金利上昇とともに上昇が始まったのである。

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その前から見てみよう。米国金利の大底は2016年7月初旬、BREXITの直後。日欧主要国の金利のボトムもほぼ同じタイミングである。それはまた日本株のボトムとも重なる。米国金利の底が日本株の底値。すなわち米国金利が上がると日本株も上がる。

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長期的に見ても、日本株は米国金利に連動して上げ下げをしているのが分かる。

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その理由は、日本株は全体としてグローバル景気敏感株であり、米国の長期金利はグローバル景気の体温計であるからだ。世界景気が強いから米国金利が上がり、その世界景気拡大の恩恵を受ける日本企業の株が買われる。

実はこれ、僕がマネックスのチーフ・ストラテジストに就任して、いちばん初めに書いたレポートで述べたことである。2010年9月の株式市場展望。そのレポートのタイトルは、「日本株はこれから上昇局面を迎える」であった。