昨日(1日)、米ワシントンポスト紙とABCテレビが実施した世論調査でトランプ候補の支持率がクリントン候補のそれを上回ったと伝わり、市場には一気にリスクオフのムードが拡がることとなりました。結局は、件の"メール問題"がまたまた蒸し返される格好となったわけで、結果的にドルはやや強めに売り込まれる状況となっています。

前回更新分の本欄で、筆者は「ユーロ/ドルにあっては、むしろ一旦下げ渋る動きが見られる可能性もある」と述べましたが、実際に足下のユーロ/ドルは1.1000ドルや1.1050ドルといった重要な節目を順に上抜ける展開となっており、それだけ「ドルを一旦手放しておきたい」とする向きが増えているという現状を浮き彫りにしています。ユーロは消去法的に買われているだけであり、ここからユーロ/ドルの上値を買って行くことは少々憚られますが、市場がトランプリスクをどの程度強く意識しているのかを測る物差しの一つとして当面は注目しておく必要があるでしょう。

世論調査の結果はどうあれ、より重要な選挙人獲得数の観点からすれば、なおもクリントン候補の方が優勢であることに変わりはなく、ドルの下値はある程度限られるものと思われます。とはいえ、そこに"トランプリスク"がある限り、なかなか買うに買えないといった悩ましい状況が米大統領選当日まで続くものと考えておかざるを得ないでしょう。

では、ここで米大統領選後のドル/円相場を考えるうえで、要注目と思われる幾つかのポイントをあらためて整理しておきたいと思います。それは、一つにドル/円の週足チャート上に描画した26週移動平均線(26週線)、31週移動平均線(31週線)、62週移動平均線(62週線)という其々に計算期間の異なる移動平均線です。過去の価格推移を振り返ると要所、要所で各線が重要な役割を果たしてきたこともわかります(下図参照)。

20161102_tajima_graph01.JPG

まず26週線ですが、同線に注目する市場関係者は多く、ことに先週のローソク足が同線を終値で上抜けたことを強気シグナルと捉えている向きは多いようです。もちろん、目下の焦点は米大統領選を目前に控えた今週の終値が同線よりも上方に位置することとなるかどうかという点であり、当座は同線が下値サポートとして機能するかどうかに注目です。

一方、31週線はなおもドル/円の上値抵抗となっており、米大統領選前後に同線を上抜けるかどうかを見定めたいところです。振り返れば、今年の年初からずっとドル/円の上値を押さえ続けてきており、仮に同線をクリアに上抜ける展開となってくれば、当面の上値余地は大きく拡がってくるものと思われます。なお、62週線は31週線を上抜けてきた場合に少し長い目で上値の目標になり得るものと考えられます。

このように、目先はトランプリスクへの警戒が拡がるなか、まずは26週線が下支えとなるかどうかに注目しつつ、同線を下抜けた場合には、次に一目均衡表の日足「雲」上限(現在は103.51円に位置)がサポートとなるかどうかを見定めたいところです。

また、米大統領選を通過した後、ドル/円の上値の重石が外れるような展開となった場合には、まず31週線をクリアに上抜けるかどうかに注目し、上抜けた場合は、まず7月21日高値=107.50円を試す展開になるものと見ます。さらに少し長い目では、週足の遅行線が週足ローソクを上抜け、昨年6月高値から今年6月安値までの下げに対する38.2%戻し=109.27円、62週線などを試す展開になって行くのではないかと考えます。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役