1.短期的な分配金への影響は少ない
日銀が7月末に金融政策決定会合(以下、決定会合)で行った金融緩和策の修正は、微調整とも言えるものであった。このためJ-REIT価格に対する影響は少なく、東証REIT指数は内容公表日の7月31日に前日比22ポイント上昇の1,768ポイントとなった。
価格面への影響が少なかった最も大きな要因は、長期金利の上昇幅が限定的であったことだ。決定会合後に10年国債利回りは日銀の上限を探るように上昇したが、J-REITの利回りは10年国債利回りとの相関性が少なくなっているため影響を受けなかった。言い換えれば、10年国債利回りが上昇したことによってJ-REITの利回りが上昇(価格は下落)する傾向は、短期的には生じることもあるという程度のものとなっている。
筆者が注目していた点は、10年など長期のスワップレート(固定金利にするための金利)への影響だ。この点についても、8月初旬時点では期間10年のスワップレートは0.35%程度に上昇したあと0.32%程度で推移している。2016年12月から決定会合前までは0.25%から0.30%程度で推移していたことと比較すれば、上昇したかたちにはなっている。
しかし、0.25%から0.30%も0.30%から0.35%へ上昇したとしても、同じ0.05%の幅である。つまり2017年の時点でも0.05%上昇の影響を受けていたことになる。加えて、0.35%の水準は2015年末と同程度であり、その前は高い水準で推移していた。
本連載(4月26日コラムの図表2参照)では、2018年4月以降に返済期限が到来する借入金の金利が0.94%であるのに対して2017年は0.57%で借換えが出来ていたため、支払利息の減少により分配金の増加基調が続くということを記載していた。例えば、今後の借入金利が0.05%上昇したとしても0.62%での調達が可能ということになり、支払利息は減少するためJ-REITの増配シナリオは維持されたかたちになった。
2.今後の日銀動向に注意が必要な局面へ
ただし、決定会合における微調整が表面通り、「金融緩和の長期的な持続性維持」のためだけではない場合には長期金利の上昇傾向が続く点には留意しておきたい。今回の決定会合では、当面の長期金利の上限を0.2%程度としているが、この状況が続く可能性は低いと考えている。
その理由として米国の利上げが続く中で為替の円安傾向が強くなれば、現在は中国に向かっているトランプ大統領の矛先が日本に向けられる懸念があるためだ。米国の圧力に抗しきれず金利上昇が続く可能性は捨て切れないと考えられるのだ。
この点のリスクを重視する投資家であれば、既に投資している銘柄やこれから投資対象となる銘柄の財務体質を充分に確認する必要があるだろう。具体的は、金利上昇への耐性が強い、長期固定金利での借入金調達が大半を占め借入金の返済期間が分散している銘柄を選択対象とすべきと考えられる。
また、決定会合ではJ-REITに対する買入れ額や投資方針に変更はなかった。ただし、実際に年間900億円相当の買入れ額が維持されるという点については不透明な要素が多い。さらに「長期的な持続性維持」という方針を続けるのであれば、現在のAA格相当だけを投資対象とする内容が変更となる可能性もある。従って、今回の決定会合ではJ-REIT価格への影響は少なかったが、今後の動向には注視を続ける必要がありそうだ。
コラム執筆:アイビー総研株式会社 関 大介
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