みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。最近の株式市場は、どうしても過酷な気候で皆様も気分がぐったりしているせいか、精彩を欠く展開が続いています。日経平均も21,500~23,000円のボックス圏の動きとなってきており、貿易摩擦を含めた政治情勢に振り回されている印象です。最近は景気そのものへの停滞観測や日銀政策への疑念に起因する金利上昇といった懸念も株価の重石となってきました。それでも底割れしていないのは相場の腰が強いとも言えるかもしれませんが、まだ当面は相場も夏休みという展開を想定しています。
さて、今回は「サマータイム」をテーマとして採り上げてみましょう。先日、2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長から、大会期間中の暑さ対策としてサマータイムの導入が提案されました。現状の酷暑下で2020年の東京五輪を迎えれば、選手や観客の健康に深刻な影響が生じかねません。既に組織委員会は一部競技の開始時間を早める決定をしていますが、そこにサマータイムが加われば一段と前倒しとなるため、酷暑の時間を避けることができるだろう、という目論見と想像します。
一般にサマータイムというのは夏季に国全体で1時間時計を進める制度で、朝の気温が低い時間から活動を開始し、逆に夜は余暇時間を長めにとろうというシステムです。欧米では既に広く導入済です。時間を早めるのはたかが1時間と思われるかもしれませんが、筆者が欧米で生活した際の実感では、これはかなりインパクトがあります。通常の業務時間を9時から5時までと考えれば、サマータイム下では現状の8時から4時がそれに相当します。気温がピークとなる2時頃はサマータイム下では既に3時ということでもあり、うだるような暑さが直撃する時間は明らかに短くなります。また、まだ日が高いうちから「夜」という設定になるので、外食や旅行などに時間を費やす機会も増えます。経済活動的にも、余暇時間の増加は好影響があるものと位置付けます。
加えて、昨今の極端な気候の遠因として指摘されている地球温暖化にも、サマータイムは効果があるかもしれません。気温の低い時間での活動が増えるため、単純に考えても消費電力の抑制、延いては温室効果ガス排出の削減が期待できます。また、都心においては冷房など人口排熱によるヒートアイランド現象も指摘されていますが、これも緩和される可能性があります。こういった利点を見れば、サマータイム導入がここにきて提唱されるのも極めて自然なことのように思えます。
ただし、日本ではサマータイムで苦い経験があります。戦後すぐの1948年に当時のGHQ指導下で一旦導入されたのですが、当時は残業増加や寝不足の頻発から極めて不評で、1952年に早々に廃止されたのです。以来、国内でのサマータイム導入に関しては何度か国会議員の間で議論の俎上に乗せる動きがあったものの、廃止したという前例もあって、本格的な議論はなされずにいました。しかし、かつて不評の原因となった残業増加も、働き方が当時とは決定的に異なることを勘案すれば、今やもはや大きな弊害とはならないと考えます。それ以上に、気候変動への懸念の台頭や東京五輪への現実的な対策が早急に求められる中、実質的なコスト負担が限定的なサマータイムはその導入が真剣に議論される可能性は十分高いと言えるでしょう。株式市場においても、この変化は大きなテーマとして取り上げられるのではないかと予想します。
では、どういった銘柄や業種がサマータイム関連となるのでしょうか。参考になるのはプレミアムフライデーで注目された銘柄群と考えます。サマータイムでは終業時刻が毎日プレミアムフライデー並みになるのですから。とすれば、夜の余暇時間が長引くことでレジャー関連や外食関連の他、コンピュータシステムの時計機能更新といったシステム関連はすぐに連想され、最も注目される分野となるでしょう。しかし、筆者は特に衣料と小売りに注目します。小売りは、むしろどこかに買い物をして帰ろうという層が増えるのではないか、と考えるため、です。所得が増えない限りは、なかなかレジャーや外食に支出を増やすケースは期待できません。むしろ、インテリアや内食、趣味グッズなどにまずはお金と余暇時間が充当されるのでは、との予想です。また、終業後の時間が実質的に伸びることから、よりカジュアルな衣料が仕事中でも容認され始めるのではないか、と考えます。既にクールビズは浸透していますが、これはまだあくまで仕事服です。仕事でも余暇でも十分対応できるような新たなスタイルが創造されるのではないかと期待します。
個人的には、涼しい時間帯で働き、明るいうちに余暇が楽しめたサマータイム期間は非常に快適であったように記憶しています。生活のリズムに対する懸念は否めませんが、省エネにも繋がる以上、是非、日本でも導入を検討してもらいたいと思っています。
コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)
日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。