みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。先々週の西日本豪雨災害に関して、被災された方またその関係者の方々に衷心よりお見舞いを申し上げます。また、その後の殺人的な酷暑の中、災害復興に尽力されている方々に最大限の敬意を表します。
さて、この強烈で過酷な気候が続く中、株式市場は勢いに欠く展開となっています。一時ほどの調整感は払拭されてきた印象にはありますが、国際情勢が一層不透明となってきたことや米中貿易摩擦のエスカレートが株式市場の重石となっているように感じています。これらはまだ落としどころが見えないファクターでもある以上、市場はまだ一進一退が続く可能性は否めません。サマーラリーを期待したいところですが、むしろ相場も夏休みというのが当面の展開ではないかと考えています。
そういった中、今回はテーマとして「亜熱帯化」を採り上げます。この現象は直近の日本の気候を見ていてそのように感じる方も多いのではないでしょうか。西日本広域を襲った強烈な豪雨、一転して今度は体温を超えるほどの気温の上昇など、明らかにこれまでとは次元が異なるような気象状況が頻出しているように思えます。こういった現象を受け、一部では「日本が亜熱帯化している」という論調も報道やネットなどで見られるようになってきました。当然ですが、気候(日本の大部分は温帯)が本当に変化してきているのであれば、人々の生活様式も激変する可能性があります。今日はそういった点に焦点を当てて、投資を考えてみることにしましょう。
なお、「亜熱帯」という言葉には実は決まった定義がなく、温帯域の中で最寒月の最低気温の平均が氷点下にはならない地域、あるいは温帯域で年平均気温が18度以上である地域とされるのが一般的なようです。冬季の平均気温がほぼ15度以上あることとするケースもあります。これらを総合的に見ると、沖縄などの一部地域を除き、日本は亜熱帯の認識には当て嵌まってはいないように思えます。実際に冬には広い範囲で降雪が観測されることを考えれば、大真面目に日本が亜熱帯化していると論じることには議論の余地があるかもしれません。「日本の亜熱帯化」という表現は、決してデータを以て整理されたものではなく、夏の極端な気候をキャッチーに評したものと言えるでしょう。
しかし、確かに「命の安全を考えなければならないほど」の猛烈な降雨や気温の上昇が頻発する現状を見る以上、やはり何がしかの気候変動を直感的に感じざるを得ません。ここでよく指摘されるのが、海水温度上昇の影響です。気象庁の調査によると、北太平洋の海面水温は100年で0.5度ずつ上昇する傾向にあるとしていますが(1890年以降のデータより)、直近数年はそういった傾向線を大きく上回るペースで海水温が上昇しています。この暖かい海水温が上昇流を発生させ、夏場には極端な天候が発生しやすくなっているというのです。とはいえ、その根本である海水温が上昇している原因は、まだ確たる理由が特定されてはいません。エルニーニョ現象を指摘する見方もあれば、単なる周期的な現象という主張もあります。そういった中、徐々に説得力を増しているのが地球温暖化をその原因とする説でしょう。温暖化は随分と昔から指摘されていましたが、単なる俗説であるとの意見もまた根強いものがありました。それが昨今の極端な気候変動と災害を目の当たりにして、温暖化が本当なのかどうか、またそれが極端な気候とどれだけ因果関係があるのかは最早さておき、その可能性があるのであれば、とにかく打つべき対策は極力打っておくべきだろう、というのが率直な心情でしょう。
そういった流れにしたがい、株式市場においても、温暖化対策関連がテーマとして再浮上してくる可能性は十分あると考えます。これまで温暖化関連銘柄は、どちらかと言えばイメージやシナリオ先行で取り沙汰されたケースが少なくありませんでしたが、今後は災害対策・減災措置も含め、現実的で業績へのインパクトを伴った関連銘柄が注目されてくるものと予想します。同時に、我々の生活スタイルも明らかに変化してくるはずです。ほんの10年くらい前では夏場でもサラリーマンはネクタイをするのが礼儀でしたが、冷房効率や健康への配慮、合理的な思考の浸透などから、今やノーネクタイを失礼だと考える人はいなくなりました。かつては上着をも(失礼になるとして)脱げなかったことから、「省エネルック」とされる半袖スーツまで登場したことを考えれば、驚天動地の変化と言ってよいでしょう。同様の変化は今後どんどん生じてくるはずです。そういった企業への投資もまた、ある意味で温暖化対策に経済面で貢献することになると考えます。
コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)
日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。