11月15日に、中国の北部地域において史上最も厳しいといわれる環境規制が発動された。その日から翌年3月15日までの暖房期は、石炭の消費量が拡大し大気汚染が深刻化する中、汚染状況を軽減するために、鉄鋼や非鉄の減産、建築工事の停止などの規制策をとるものである。規制策の内容と今後の展望を考えてみる。
2段階からなる環境規制策
中国では、ここ数年PM2.5(微小粒子状物質)に代表される大気汚染が全土で深刻化している。今年の北京を一例に、空気質指数(AQI)でみると、空気の質が良好である日数は、全体のわずか4割にとどまる。軽度汚染から厳重汚染までは全体の6割と、汚染状況は厳しい(図表1)。

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こうした状況から、政府は「大気汚染行動計画」を打ち出し、2017年末までにPM2.5等の大気汚染物質を2012年対比で10%以上削減することを公約していた。しかし、今までの経過を見ると、むしろ汚染状況が厳しくなる一方であったため、行動計画の期限が到来する今年に厳しい規制策を発動させたのである。
規制策の内容は、大きく2段階に分けられる。第1段階では、3月から10月までに、「小・散・乱・汚」企業の取締りを強化した。具体的には、小規模(小)、産業集積政策違反(散)、違法操業(乱)、汚染規制違反(汚)の企業が対象となり、計18万社程度の企業が閉鎖となった。鉄鋼をはじめ、非鉄金属、建材、化学工業、印刷、家具製造など数多くの業種にメスが入り、供給不足、一般企業の稼働率向上、市況の上昇が幅広い産業で確認された(図表2)。

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広範囲の建築工事停止と幅広い減産
第2段階では、粉塵が多く発生する建築工事の停止と、大気汚染物質を多く排出する鉄鋼などの減産がメインとなる。規制対象となる都市は、汚染状況が特に深刻である28都市(北京市・天津市の2都市と河北省・山西省・山東省・河南省の26都市、「2+26」と略される)。
建築工事の停止は、原則暖房期の4ヶ月間に限定されるが、天津は10月初から翌年3月末の半年間を規制対象にした。これによって鋼材需要は3千万トン以上減少するとみられ、うち不動産が3分の2、インフラ建設が3分の1を占める。さらに、工事停止の動きは中央政府規制対象ではない四川省や陝西省などの内陸部にも広がりを見せており、鋼材や建材などへの影響は予想を上回る可能性がある。
減産措置については、鉄鋼は50%、コークスは30~50%、電解アルミは30%以上、アルミナは30%、陽極は50%以上の減産が強いられる。各々の減産幅は、2016年実績対比で3~5%程度(年ベース)に及ぶと試算されている(図表3)。

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今後の展望
短期でみると、規制は期限が到来する2018年春に解除される見通しであり、需要、供給ともに回復が見込まれる。しかし長い目でみると、環境対策は政府の主要課題の1つであり、規制は今後強化されていくと見られる。
大気汚染は、従来の公害と違って被害範囲がほぼ中国全土に渡り大変広いうえに、誰が見ても汚染の深刻さが一目瞭然であるため、国民からの不満の声が日増しに拡大している。目に見える形で対策を取らなければならない。一方で、ロンドンや北九州の大気汚染対策事例を見ても、それには数十年かかる可能性がある。従って、今後長期にわたり、政府は国民の2大関心事である「雇用」と「環境対策」の間で、アクセルを踏んだりブレーキをかけたりする難しい政策運営が続きそうだ。最も考えられるシナリオは、来年以降第2弾の5ヵ年行動計画が継続して策定されることだ。そうした行動計画の期限が到来する終盤にかけて規制が強化されていくパターンが続く可能性が高い。
中国では中間層や富裕層が拡大しており、健康意識が全土で高まっている。中国政府は、環境対策の道をひたすら前進するしかないと思われる。

コラム執筆:李 雪連/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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