電力の小売全面自由化を契機に、自治体主導による限定地域での電力小売事業への取り組みが増えている。取組み形態は、①自治体が地域新電力へ出資するケース(所謂、自治体新電力)、②出資せずに地域新電力の設立に関与・支援するケース、とあるが、自治体新電力は、2016年10月11日時点で18社が小売電気事業者へ登録済みとなっており、小売全面自由化開始時点の11社から大きく増えている。
小売全面自由化以降、小売電気事業者の登録数は増加し続けて現時点で409社。競争が激しい小売事業で自治体新電力が増えるのはなぜだろうか?
1.自治体新電力が増加している背景
まず、国の支援によるところが大きい。例えば、総務省は、関係各省と共同して「分散型エネルギーインフラプロジェクト(マスタープラン策定事業)」を実施し、自治体主導でプロジェクトを推進している。これまで28団体がマスタープランを策定し、2団体が事業を開始した。図1の「とっとり市民電力」と「ローカルエナジー」がそれに該当する。
2点目は、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)によって、自治体も太陽光発電等の再エネ開発・事業経営を行い、自前の供給力を確保したことがあげられる。FIT導入前にごみ発電を保有していた自治体は多くあるが、FIT導入により特に太陽光発電が増えたことが大きい。
3点目は、小売事業は消費者と直接接点を持つため地域の声を取り込みやすく、地域性を発揮しやすいことがあげられる。
地域の再生可能エネルギー(発電)を地域で消費(小売)する地産地消を図ることで、域内の資金循環の拡大や地域の雇用創出が期待できる、とされている。
2.自治体新電力の特徴
自治体の小売事業への出資比率は、数%から50%超と様々だが、地域の民間企業等との共同出資の形を取っている。電力小売事業は、電力の需要と供給を常にバランスさせる同時同量ルール等の様々な事業運営上のノウハウが必要であり、その実務(需給調整業務)を担う経験豊富な人材をもつ民間企業と連携することが重要になっている。需給調整業務を内製化している自治体新電力もあるが、経験豊富な大手新電力とバランシンググループを組んで当該業務を委託するケースもある。特に、需要規模が小さい場合や太陽光発電を電源として活用している場合は、大手のバランシンググループに入ることで同時同量リスクを低減することが事業運営上重要であろう。
3.自治体新電力の今後の課題・注目点
地域内の電力需要を満たすだけの供給力を安定して確保できるか?というのが一番の課題ではないだろうか。事業用太陽光発電は、改正FIT法により新規案件が今後増えていくことは考えにくいし、小水力や地熱発電は開発のリードタイムが長い。
期待されるのはバイオマス発電だろう。地域エネルギー事業として熱の有効利用により効率向上が図られるため、自治体主導で熱導管等のインフラ整備が進むことに期待したい。
また、自治体新電力にとって、今後VPP(注1)の取組みも重要になるのではないか。静岡市は、国の補助制度に頼らず、自治体独自で民間企業と連携してエネルギー地産地消を目指し、この4月からVPPに取り組むことを公表した(注2)。今後の動向に注目だ。
(注1)2016年11月1日 マネックスラウンジ『第152回 バーチャルパワープラントの実証スタート』
(注2)静岡市 平成29年3月9日 市長定例記者会見資料「エネルギーの地産地消事業の実施」
コラム執筆:松原 祐二/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
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