丸紅がアラブ首長国連邦アブダビに建設するメガソーラー(注1)は、現時点で世界最大規模(東京ドーム166個分)・世界最安電力料金(キロワット時あたり2.42米セント)ということで、メディアや自然エネルギー関係者にご注目いただいている。わが国とは日射量の違いもあるものの、太陽光は各地でずいぶん価格が下がっている(図表1)。

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昨年秋に遡るが、ある自然エネ系団体のパーティーで、同席された省庁の方にご挨拶する機会があった。「最近は太陽光のコストもだいぶ下がり、普及が期待できそうですね」と申し上げたところ、「不安定で、バックアップ用に火力発電が必要な限り、自然エネが火力発電より安くつくことはない」とのお返事をいただいたと記憶している。

1.自然エネは不安定だが、頼りにできる
自然エネの弱点は「お天気任せで【不安定】なこと」だと言われる。【不安定】は、「時間ごと・日ごとのバラつき(Volatility)が大きい」と「不確実で予測不能」という2つの面を漠然とミックスした感覚だろう。株式市場に精通された本コラムの読者であれば、Volatilityの高さの方はマイナス面だけではないこともご存じだと思う。残るのは予測可能性だが、自然エネルギー発電量は、予測に関しては十分な精度が達成できるようになっている。スペインでは、REE社が2001年に開発した「SIPREÓLICO」と呼ばれる風力発電所の発電量予測システムが、再エネ大量導入に大きく貢献している。
わが国でも、環境省の「風力発電等分散型エネルギーの広域運用システムに関する実証研究」で日本気象協会らが発電量予測の手法の研究を行っている(注2)。空間的に離れた5か所程度の自然エネ発電設備を束ねて発電量を予測することで平滑化効果が表れ、94.6%の頻度で予測誤差は2割以内であり、1割以内に収まる頻度も85%程度を達成できることが示された。予測精度としても、実績値からのズレが9%程度という高精度の予測を達成できたという。

2. 自然エネ用にバックアップ火力を新設する必要はない可能性も
スペインの例でも火力を調節電源に使っているが、上述の日本気象協会の研究では、予測精度を上げたことでVolatility補償に必要な予備容量が半減できることも示された。このコラムで何度か紹介している2016年の経済同友会の再エネ提言書(注3)は、そうした調節が、供給者が備える大型蓄電池、需要家側に分散設置する蓄電池とICTを利用した需給管理(注4)、グリーン水素等でも可能だと指摘している。この他、現在は稼働率が低い揚水発電も活用できるはずだ。必要な予備容量が半減することで、割高な蓄電池の容量はかなり抑えられそうだ(注5)。荒天等によって自然エネの発電量が極端に低下すれば火力発電ももちろん必要だが、既存の設備を有効活用する程度で済み、わざわざ予備の火力を新設する必要はない可能性が高い。

3. せっかくの既存設備は使えるだけ使わないともったいないのか
ベースロード電源の大役を担うべく建設した火力設備の地位を調節電源に下げ、稼働率を低下させることには、現実には大きな抵抗がありそうだ。設備投資費用の回収や地元の方の雇用の問題は容量メカニズム(注6)が創設されれば金銭的には解決できても、「せっかくまだ使えるのに廃棄するのはもったいない」というわが国独特の道徳観があるからだ。白熱電球よりLEDの方が安くつくとわかっていても、「LEDはもっと安いものが出るかもしれないし」等と自分に言い聞かせつつ、白熱電球が切れたときに1つずつしか切り替えないのが日本人的な気がする。「本当は自然エネでも大丈夫で、その方がよいのかもしれない」と予感してはいても、そうした道徳観が「自然エネは【不安定】でダメだから」と思考停止させているのではないだろうか。
しかし、昨今の中東や北東アジアの地政学リスクを考えると、化石燃料に頼らない自然エネへと一気に飛びつくことになるかもしれない。期間限定のエコポイント(注7)のおかげで、ブラウン管テレビがあっという間に液晶テレビに切り替わった先例(図表2)もあるように。

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(注1)2017年3月1日『アラブ首長国連邦・スワイハン太陽光発電プロジェクトの長期売電契約締結について』
(注2)環境省地球温暖化対策技術開発・実証研究事業『風力発電等分散型エネルギーの広域運用システムに関する実証研究』
(注3)2016年6月28日経済同友会 環境・資源エネルギー委員会『「ゼロ・エミッション社会を目指し、世界をリードするために」―再生可能エネルギーの普及・拡大に向けた方策―』
(注4)「深夜割引」のように需給に細かくリンクさせた電力料金設定やデマンドレスポンスに対する需要家側の機敏な反応等。デマンドレスポンス(DR)とは、電力消費を削減して需要を減らすことで、電力系統における需給調整を図る仕組み。2016年11月1日マネックスラウンジ『第152回バーチャルパワープラントの実証スタート』(松原祐二) (注5)EV(電気自動車)は移動式の蓄電池とも言われ、こうした需給調整に役立つ。中でも、短距離の決められた路線だけを往復し、起点・終点での待機時間が必ずある路線バスの電動化は、需給調節用の蓄電池として大いに期待できる。2012年5月29日マネックスラウンジ『第 35 回 あなたの街にももうすぐ電動バスがやって来る!』(筆者)
(注6)小売電気事業者や発電事業者に将来必要となる供給力を確実に確保することを求めることで、発電投資を促しつつ、国全体で将来必要となる供給力を確保する仕組み。
(注7)家電エコポイント制度は、2009年5月15日から2011年3月31日までに購入した製品を対象に、地球温暖化対策、経済の活性化及び地上デジタル対応テレビの普及を図るため、グリーン家電の購入により様々な商品・サービスと交換可能な家電エコポイントが取得できる仕組み。

コラム執筆:松原 弘行/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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