乗用車ではハイブリッド車や電気自動車といったエコカーを街でだいぶ見かけるようになってきたが、バスやトラックといった大型自動車のエコカー化には、重量の制約で十分なバッテリーを搭載できないというネックがあって、実現はまだ難しいといわれている。しかし、あなたの街の路線バスが電気自動車に変わるのは、案外もうすぐかもしれない。環境省の「産学官連携環境先端技術普及モデル策定事業」における、早稲田大学の研究者らによる「地域普及型の電動マイクロバスの開発と普及モデルの構築」と慶應義塾大学の研究者らによる「電動フルフラットバスの地域先導的普及モデル策定とシステム化の実証研究」の研究開発成果である電動バスが、実際の営業路線と同じルートで順調な実証運行を続けているからだ。

早稲田大学と民間企業のグループが開発したバス「WEB-3」(Waseda advanced Electric micro Bus)は、市販のミニバスを改造し、最新の非接触充電装置とリチウムイオンバッテリを搭載した電動バスである。電気自動車の実用化にむけて最も高い技術ハードルとなっている "大きく・重たく・高コスト"なバッテリーの搭載量を意識的に最小限化し、バスターミナルに戻って来る度に毎回急速充電を行なうというユニークな"短距離走行・高頻度充電コンセプト"(図1)を採用し、車両重量低減と車両初期コスト削減を実現した。バスターミナルでの充電は運転手に負担をかけずに"短時間・安全・手間いらず"で行なう必要があるため、運転席からのボタン操作のみで充電を可能とするノンプラグイン方式の"非接触充電装置"を独自に開発し、導入している。

図1 WEBの短距離走行・高頻度充電コンセプト(資料提供 早稲田大学)

写真1 WEB-4の写真。バス前方の路面に非接触型充電装置(給電側)が埋め込まれている。
(資料提供 早稲田大学)

このWEB-3は、定員を拡大した最新式の電動バスWEB-4とともに、長野市のコミュニティバス「ぐるりん号」の中心市街地循環路線で長期間の実証運行試験を行っており、導入モデルを検討しながら低炭素性及び事業性等について検証中である。
利用者へのアンケート結果では、加速性が良い点や音が非常に静かな点など、好評を得ているとのことで、地方都市等の小規模路線等での普及が見込まれる。

慶應義塾大学と民間企業らのグループが開発した電動低床フルフラットバスは、車体を新たに製作し、次のような革新的技術によりスペースの広さと走行性能の高さを両立させている。モーターは車輪中に(インホイールモーター)設置、走行用の電池等の主要部品は床下のコンポーネントビルトイン式フレーム内に収納し、車体を軽量化・低重心化するとともに床上の設置スペースを不要とした。さらに、小径車輪の8 輪構成とすることにより、床から上に飛び出すホイールハウスも小さくなり、乗客のための有効空間を広く確保している。航続距離は120kmと、標準的な路線バスの1日の運行が可能となるレベルを実現しているので、安価な夜間電力のみでも充電が可能である(CHAdeMO規格の急速充電ほかに対応)。

写真2  電動低床フルフラットバス 外観写真 (資料提供 慶應義塾大学)

実証運行試験は、(株)SIM-Driveらが神奈川県・湘南台地区(郊外型路線)と東京都・羽田地区(都市型路線)で実施中である。バス事業者の観点から経済性や運用性、運転者の操作性等を評価するとともに、利用者に試乗をしてもらい、利便性・快適性・安心感等の利用上のさまざまな評価を行っているところで、運転者からも利用者からも概ね高評価を得ているそうである。

図2 電動フルフラットバス試乗後の利用者アンケート結果 (資料提供 慶應義塾大学)

これらの実証運行試験は、それぞれ、環境省の「チャレンジ25地域づくり事業」の一環で実施されており、このほかにも徳之島では電気バスによる離島地域における低炭素公共システムを構築するために必要な事業性や採算性等についての検証が行われている。電動バスの導入モデルや事業性については、最終的にはこれらの検証結果を待って判断する必要があるが、上記のような中間報告を聞くと実用化の確度は高いようで、電動バスの本格的な普及が楽しみに待たれるところである。

コラム執筆:松原弘行/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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