鉄鋼産業は、中国発の生産過剰とEUや米国など需要低迷との間のギャップが広がり、世界的な供給過剰に陥っている。半製品から鋼材において価格競争が激化し、内外鉄鋼メーカーの多くは業績が悪化している。世界鉄鋼生産の5割へとシェアを急速に拡大した中国の行方が要となるが、その最新の動向を見てみたい。

■本格的な過剰生産能力削減へ

中国における粗鋼生産は2015年に▲2.2%の伸びとなり、1981年以来34年ぶりの減産を経験した。粗鋼生産量は8億トンに留まったが、生産能力は12億トンに上っている。その稼働率は、わずか67%に低迷し、合理的な水準である80%をはるかに下回っている。それだけでなく、統計が確認できる1990年以降において、最悪の不況に陥っている(図表1)。

最大の要因が、国内粗鋼需要のピークアウトである。国内需要は7億トン程度で飽和状態に近づいている。日本の場合は1970年前後に一人当たり粗鋼消費が600キロ程度に急速に拡大した後、長期にわたり600~700キロの間で推移した。中国の一人当たりの粗鋼消費は、2003年の200キロ程度からわずか10年程度で550キロを超え、足元では500キロ台に留まり伸び悩んでいる。環境規制が厳しくなっている中、鉄鋼多消費型社会からの転換を視野に、今後中国国内において粗鋼消費を大きく伸ばす余地が少ない。

また、過剰生産能力も鉄鋼産業の重荷になっている。中国では生産能力過剰業種は十数業種があるが、鉄鋼産業はその代表格である。2016年の中国政府ミッションに、鉄鋼と石炭の生産能力削減が挙げられ、本格的に削減していく方針を示している。今後、新規建設は禁止されると同時に、今後3~5年の間に粗鋼生産能力を1~1.5億トン削減し、石炭については5億トン削減することが決まった。180万人の雇用に影響が出ると想定されているが、中央政府は今後4~5年の間に、毎年1,000億元を支出し、その再雇用の支援に当てる方針を採っている。中央財政から補填があるのは初めてであり、その金額も十分と思われることから、これまで滞っていた過剰生産能力の整理に本格的な進展が出ると期待が高まっている。

■宝鋼と武鋼が統合へ

生産がピークアウトしている中、鉄鋼業界は今後数年間、再編統廃合の時代へと突入するだろう。原則、中小零細を対象に過剰生産能力の除去、集約化が進行する見込みであるが、高級鋼材工場を所有する国有大手が統廃合の中心的存在になると見られている。

その中で、宝山鋼鉄(生産規模が中国第2位)と武漢鋼鉄(同第4位)が6月27日より再編統合のため株式の売買停止を発表した。中国政府が掲げている供給側改革及び国有企業改革の始まりを象徴するが、生産量は2社合わせて6,000万トンと、新日鉄住金をしのぎ、世界最大手アルセロールミタルに次ぐ規模に巨大化する(図表2)。

中国政府は、鉄鋼産業集積度(上位10社のシェア)を現在の34%から2025年に60%に引き上げる計画がある。将来的には中央政府に属する国有企業につき、既存の8社体制から鉄鋼生産と関連サービス企業を各々2社ずつの4社体制に統合すると見られている。

宝山鋼鉄と武漢鋼鉄の統合を契機に、本格的な再編統合が始まったことに対する期待感が高まり、足元では鋼材市況が回復を見せている。ただ、今後については、雇用の壁と地方政府の抵抗を乗り越え鋼材市場に安定した好影響をもたらす、その改革の確度及び時間軸を見極める必要がある。

■当面は輸出ドライブ

2015年の鋼材輸出量は、前年比2割増と初めて1億トンの大台を突破した。鋼板および棒鋼の伸びが顕著である。2016年1-8月では前年比6.5%増、年間では1億2千万トンに達する勢いである。仕向地別では、韓国、ベトナム、インドネシア、タイ、フィリピン等のアジア向けが大幅に増加している。リーマンショック以降、長引く国内需要の低迷を背景に、輸出単価を大幅に切り下げ、低価格路線で海外市場を攻める傾向が強まっている。世界全体の鋼材輸出はここ十年4億トン前後で推移しているが、中国は2013年以降に大きくシェアを伸ばし、2015年には4分の1にシェアを拡大している。

こうした中国産鉄鋼の供給過剰により輸入各国でのアンチダンピング提訴(Anti-Damping/AD)とセーフガード(safe guard /SD)発令が頻発しており、いわゆる「鉄鋼通商問題」に起因した「保護貿易主義」が顕在化している。台風の目にある中国は、生産能力の削減に本腰を入れているが、当面はこうした摩擦がくすぶり続けるだろう。

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コラム執筆:李 雪連/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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