先週3日に発表された5月の米雇用統計の衝撃的な結果を受け、足下の外国為替市場では一気にドル安が進む展開となっています。これで6月米利上げのセンは消滅したと言っていいものと思われますが、セントルイス連銀のブラード総裁らが指摘しているように7月利上げの可能性が完全に封印されたわけでもないでしょう。

発表から少し時間を置いた後に、5月の非農業部門雇用者数(NFP)の大幅な伸びの鈍化は「何らかのエラーによる異常値であり、次回6月の発表時に上方修正されるだろう」、「単月の数値だけでは何とも言えず、ここは失業率の低下や平均時給の伸びを評価したい」など様々な見方が飛び出してきて、少なくとも弱気一辺倒に傾くべきではないといったムードが生まれつつあることも確かです。

平時はあまり注目度が高くないものの、先週2日に発表されたADP全国雇用者数の伸びが前月比+17.3万人であったことを考えると、やはり5月のNFPの結果には相当な違和感を覚えることも事実です。仮に次回6月分の発表時に上方修正が為された場合には、その分相場もドル高方向へと大きく修正されることになるでしょう。

とはいえ、目の前では現実にドル安傾向が強まっており、本日(8日)も執筆時までに一時107円を割り込む場面が見られています。結局、ドル/円は前回更新分の本欄でも注目した一目均衡表の日足「雲」上限に強く上値を押さえられるような格好で反落し、今後、場合によっては5月初旬につけた直近安値=105.55円辺りの水準をあらためて意識した展開となる可能性も十分あるものと思われます。

もちろん、ドルは対ユーロでも売り優勢の展開となっており、ユーロ/ドルは今週6日に一時1.1392ドルまで値を戻す場面もありました。ただ、足下では一目均衡表の日足「雲」上限が目先の上値を押さえており、一段のドル安には歯止めがかかったような格好になっています。また、少し上方には5月3日高値から5月30日安値までの下げに対する61.8%戻し=1.1417ドルの節目があり、同水準も当面の上値抵抗として意識されやすいところであると考えられます。

さらに、ユーロ/ドルの週足チャートに一目均衡表を描画してみると、その週足「雲」上限水準も当面の上値を押さえる一因となり得るように思われます。過去を振り返れば、日足の「雲」と同様に週足の「雲」も、ともに相場の重要な節目として、その都度意識されてきたということがわかるでしょう。

つまり、目下のユーロ/ドルは複数の重要な節目が位置する水準に到達しており、そこでドル安の一段の進行にも歯止めがかかる格好となっています。今後も、これらの節目がユーロ/ドルの上値抵抗として強く意識され続けるならば、結果的に対円でのドル安の進行も自ずと限られたものになるでしょう。

逆に、ユーロ/ドルの一つ一つの節目は非常に重要と考えられるだけに、ひとたびクリアに上抜ける展開となった場合には、一時的にも想定以上にドル安が進む可能性もあるものと思われます。よって、ドル/円の今後の行方を想定するうえでも、やはりユーロ/ドルが今後、当面の上値抵抗と考えられる複数の節目に押し戻されるのか、はたまたクリアに上抜いて行くのかという点を注視しておくことは必要でしょう。

コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役