原油価格が低迷する中、米国のシェールオイル生産量の行方が注目されている。タイトオイルとも呼ばれるこの原油は、頁岩(シェール)という固い岩盤に薄く広く存在する軽質油だ。採掘技術の確立などから、近年、米国においてシェールガスとともに生産量が急速に拡大した。2014年に原油価格が急落した背景には、世界的な原油需給の緩和があるが、その生産側の要因として、このシェールオイルの増産が指摘される。実際、2008年からの5年間で、米国が非OPECの原油増産分に占める割合は5割弱(注1)と圧倒的であり、米国増産分のほとんどがシェールオイルによるものとされる。

原油価格は、2014年11月のOPEC総会で減産が見送られ、サウジアラビアがそれまで担っていた生産調整者としての役割を放棄したことから下げ足を早め、2015年に入って1バレル50ドル割れまで下落した。シェールオイルの生産コストの中心は、1バレル40~70ドル程度と見られており、現状の価格では採算割れのプロジェクトが発生するため、シェールオイルの生産が滞るのではという見方がある。実際、米国の石油・天然ガスを採掘するためのリグと呼ばれる掘削装置の稼働数が急激に減少している。2015年2月末時点では、3ヶ月前に比べて3割以上の減少だ。【図1】

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ところが、米国の原油生産量は増加が続いており、現時点ではシェールオイルの明確な減産は確認できていない。これは、リグ稼動数が生産性の高くない地域で大きく減少していることや、稼動している掘削リグ1基あたりの生産量が増えているためだ。事実、2008年から2009年にかけて、リグ稼動数は半分以下に減少したが、原油生産量はむしろ増加した。【図1】米国の原油生産の効率化は進んでおり、米国のシェールオイル生産量の9割を占める、バッケン、イーグルフォード、パーミアンの3地区における新規1稼動リグ当たりの原油生産量は、3年前の2倍以上に拡大している。【図2】

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米国では開発をする土地の所有者とシェール開発をする石油会社との間で、契約期間中に一定数の掘削を行うことが義務付けられているケースが多い。また、石油会社と掘削会社の契約も、通常は掘削する坑井数や期間などが定められており、これらの契約の解除には違約金が発生する。そのため、油価が下落して採算割れとなっても、新規開発はすぐには止まらない。また、シェールオイル生産企業は目先の販売について、採算の取れる価格で事前に先物で売値を一部確定させていると見られている。そのような企業においても、低油価がただちに生産停止に結びつく訳ではない。

とはいえ、米国のリグ稼動数は、予想をはるかに上回るペースで減少している(注2)。また、開発現場では、上述の契約解除の違約金を払ってまでリグ稼動を止めるケースも散見されており、週単位で見た場合、2015年のどこかでシェールオイルの増産が抑えられるという見方が一般的だ。

米国エネルギー情報局(EIA)は、米国の原油生産量(日量)は2015年第三四半期に前期比で減少するものの、第四四半期には再び増加すると予想している(注3)。生産コストについては、掘削の効率化に伴い、1バレル20ドル台というプロジェクトも出てきていると報じられている。また、体力のあるシェール開発企業は収益率の高い鉱区のプロジェクトに経営資源を集中させ、原油価格をにらみながら増産に備えている模様だ。米国のシェールオイル生産量の減少は、あったとしても、一時的かつ小規模なものにとどまる可能性が高そうだ。

(注1 )BP統計からの推計値。2008年から2013年の非OPECの原油生産量は日量330万バレル増加しているが、国別で見ると、増産分672万バレル/日、減産分342万バレル/日。この間、米国の増加分は国別で見た増産分の5割弱に相当する同322万バレル。
(注2 )2014年11月時点で米国エネルギー情報局(EIA)は2015年の1月から12月までの間に稼動リグ数が24%縮小すると予想したが、2015年2月20日時点で既に年初から28%減少した。
(注3 )2014年2月月報。尚、同月報では2015年年間ベースの生産量は前年比増加が予想されている。

コラム執筆:村井 美恵/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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