夏です。ということで筆者も夏休みを利用して実家に帰省しました。筆者は既に40がらみの立派なオジサンなのですが、親にとって子供はいつまでも子供、大変暖かく迎えてくれました。毎日家族で食卓を囲み、両親の変わらぬ食欲を見て、「ああ、まだまだ健康だな」とほっとすると同時に、72歳の父親が美味しそうにトンカツを頬張るのを見ると、「本当に高齢者は肉を食べなくなるのだろうか」という疑問が生じてきました。以下、様々な角度から日本人の食肉需要の展望を考えてみました。
図表1は1970~2009年の日本の1人当たり食肉供給量(≒需要量)と1人当たり実質GDPの推移を示したものですが、両指標の相関関係の強さに驚かされます。もうひとつ驚くべきことは、日本人の国民年齢の中央値は2000年に41.3歳(国連中位推計)と40代に突入しているのですが、その後も1人当たり食肉供給量(≒需要量)が緩やかな増加傾向を維持している点です。このグラフを見る限り、1人当たりの食肉需要量は年齢(高齢化)よりも所得の影響を強く受けているように考えられます。
次に図表2では国際的な視点から所得と食肉需要の関係を知るべく、2009年現在の世界各国の所得(1人当たり名目GDP)と1人当たり食肉供給量(≒需要量)の関係を調べてみました。するとやはりここでも所得と食肉需要の間には密接な関係があることが分かりました。また世界基準(図表中の右上がり直線)からみれば、日本の所得水準であれば1人当たり食肉供給量は80kgくらいあって然るべきで、現在の水準(45.9kg)からは大幅な増加余地がありそうです 。
次に年齢と食肉需要の関係を調べてみましょう。図表3は2011年家計調査における世帯主年齢階級別の畜産物支出金額・購入数量をそれぞれ1人当たりに換算したものです。内容を分かりやすくするため、品目ごとに支出金額が最も高い年齢階級は黄色、購入数量が最も多い年齢階級はピンクで塗り分けてみました。すると世帯主が60-69歳の階級が肉類に対する支出金額・購入数量とも最も多い という結果になりました。この階級は可処分所得が多いため、肉類に対する支出も多いと考えられ、この結果は先に図表1・2で示した結論(所得大=食肉需要大)とも整合的です。
図表 3 2011年の世帯主年齢階級別畜産物等に対する1人当たり年平均支出(資料:総務省)
以上の考察をまとめると、食肉需要を左右する最大の要因は所得ということになります 。低成長とされる日本経済ですが、それでも実質GDPは年1%程度増加しており、従って今後も緩やかな所得増加に伴い食肉需要は増加するかもしれません。そして図表2を見る限り、日本人にはまだまだ食肉需要を増やす余地があるようです。また図表3によれば、相対的に所得の高い日本の高齢者は我々が思っている程には食肉需要を減らさないと思われます。この「高齢者は意外と肉が好き」という我々の予想を裏切る現実の背後には、面白いビジネスチャンスが潜んでいるかも知れません。
コラム執筆:榎本裕洋/丸紅株式会社 丸紅経済研究所
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