ロンドンオリンピックが閉幕した。日本は史上最高となる38個のメダルを獲得するなど、選手の活躍は目覚ましく、寝不足と葛藤された方も多いであろう。オリンピック終盤にかけては、折しも日韓の政治的関係が冷え込む中で、銅メダルをかけて男子サッカー、女子バレーそれぞれの日韓戦が繰り広げられるなど、最後まで目を離せない大会であった。

その韓国はといえば、総メダル数では28個と日本を下回るものの、金メダルに関しては13個と参加国中5位であり(日本は7個、11位)、やはり何かと気になるライバルといえるのではないだろうか。

スポーツ以外でも、依然として人気の続く韓流ブームや、日本の家電メーカーが苦戦を強いられるのを尻目に躍進する韓国メーカーの存在など、政治・経済・文化のあらゆる面で韓国を意識せざるを得ない状況である。しかし、そのような韓国の景気動向については、スポーツや韓流ブームほど堅調とは言えないかもしれない。

韓国経済はリーマンショック後の景気の落ち込みから急回復したのち、他の先進国に比べても比較的高い水準での成長率を維持していた。しかし、先日発表された2012年4-6月期の実質GDP成長率は前期比+0.4%と、1-3月期の+0.9%に比べ減速していることが確認された。(図表1)

4-6月期の減速は、個人消費の鈍化と設備投資の反動減が主因であったが、気になるのが外需の動向である。今期の純輸出(輸出-輸入)の寄与度は+0.6%とプラスに寄与したが、これは輸入の減少(GDPベース、前期比▲0.9%)が輸出の減少(同▲0.3%)を上回ったためであり、必ずしもポジティブなプラス寄与にはなっていない。

外需の動向に注目すべきである理由は、韓国の輸出依存度(輸出額対名目GDP比)が49.7%(2011年)と、非常に高い経済構造になっているからである。輸出が経済を牽引している印象を受ける日本の輸出依存度は14.0%であり、その水準の高さがうかがわれる。(図表2)

実際、実質GDP成長率と輸出の伸び率は似た動きをしており、GDPベースでの輸出は2010年1-3月期以降、7四半期連続で前期を上回って推移し(前期比平均+3.1%)、経済を牽引していた。しかし、2011年10-12月期に前期比▲2.3%となったのち、今期も同▲0.6%となっており、輸出の伸びは鈍化している。

とくに、韓国からの輸出のうち約24%を占める中国向けの輸出額は、通関統計ベースで2012年3月以降4カ月連続の前年割れとなっている。また、欧州向け輸出は2011年10月以降、9ヶ月連続で前年割れとなっており、中国の景気減速、そしてその一因となっている欧州債務危機に端を発する世界的な景気の低迷が、韓国の輸出動向にも影響を及ぼしていることは否定できない。

欧州の債務問題を巡る状況は短期的には解決することは想定しがたく、しばらくは世界的な景気の低迷が続くであろう。そのため、輸出による景気の底上げが期待しにくいことが足元の韓国経済の抱える問題点の一つといえよう。(図表3)

このような、外需に依存する韓国経済を象徴するのが積極的なFTA戦略である。韓国は国を挙げて通商政策を推進しており、貿易総額に占めるFTA締結国は34%にも上っている。(交渉中を含めると、70.6%。)(図表4)

FTA締結交渉が順調な背景には、韓国は輸出立国であり、そのための政策がFTAであるという認識が国内で深まっていることや、最初のFTAであった韓チリFTAの締結の際、農業部門に対し十分な補償をしたことなどが寄与していると言われている。

もちろん、韓国国内でも自由貿易推進に対する抵抗感はあり、先般締結された韓米FTAにおいて議会における批准同意が難航する場面もあったが、それでも日本より先行している姿勢には見習う点があるだろう。(なお日韓のFTA交渉は2004年11月以降、交渉会合は中断している。)(図表5)

韓国経済には、以上のような「世界的な景気悪化による輸出の不振」の他にも、「不動産価格の下落」、「高齢化の進展」、「財閥中心の経済構造と格差の拡大」など様々な懸念事項が存在し、景気の先行きに対する不安材料は多い。

国内の経済情勢が悪化するなかで、2012年12月には5年に一度の韓国大統領選挙も控えており、景気動向が大統領選挙の趨勢、そして新政権誕生後の政策にも影響を与えることは避けられない。

したがって、当面、韓国を巡る報道がメディアを賑わせる状況が続くかもしれないが、注目されやすい政治・外交動向だけでなく、韓国国内の経済状況にも注意を払っておく必要があるだろう。

コラム執筆:常峰健司/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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