●新興国リスクは、経常収支や外貨準備の改善から、過去よりはマシとの見方もある。しかし、09年以降の世界的な金融緩和で、新興国の債務残高は絶対額でもGDP比でも過去最大となっている。
●世界の貸出市場の最大の担い手は日本勢である。他国は先行して慎重になっていたが、邦銀も、今期の海外貸出の計画をみると、調達金利の急上昇や、国際資本規制の重石、将来的な調達への懸念等で、海外与信について保守的・選別的になっている。
●また、使える資本が限られている中で、親密先の大型のM&A案件や設備投資需要が拡大すれば、新興国に対する資金の割り当ては減少するだろう。新興国リスクは、財政状況等に加えてこうした資金の流れも見る必要がある。当面新興国の通貨、株式、投信等への投資は控えたい。
新興国リスクが波及しつつある
新興国リスクが意識されるようになっている。当初は、トルコ、アルゼンチンなど、信用力的に最弱とされる国で通貨の下落が目立ったが、足元では、それ以外新興国の通貨や国債利回りにもマイナス影響が出始めている(図表1)。おりしも、マレーシアの債務が公表値よりもはるかに大きいという衝撃的な発表もあり、新興国への懸念が広がっている。
これらの国については、数年前に為替レートの下落が懸念された時に比べて外貨準備高が改善していることや、経常収支赤字が改善している国も多いこと(図表2-1)などから、トルコやアルゼンチンのような極端に弱い国以外には波及しないとの見方も多い。実際、経常収支赤字幅と最近の為替レートの下落率には一定の連関もある(図表2-2)。
しかし、新興国のリスクは楽観視できない。数年前よりもはるかに膨張している債務残高が懸念材料である。新興国全体の債務残高は、リーマンショック後3倍となり、絶対額でもGDP比でも過去最大に膨れ上がっている(図表3)。
この数年の世界的な金融緩和で、投資先に困った世界の資金が高いリスクとリターンを求めて新興国市場に流入してきた。それゆえに、海外マネーのリスクテイクが低下すれば、再び資金が流出してしまう可能性が高い。
主要国のリスクテイクは低下:最大の担い手である邦銀が曲がり角に
では主要国のリスク選好度はどうか。多くの先進国は、ここのところ海外でのリスクテイクを控えている(図表4)。唯一の例外が国内市場に成長機会が見出しにくい日本である。日本は、2015年以来、海外与信額で世界一になっている。
しかし、足元では、その邦銀の海外与信スタンスさえも、保守的・選別的になってきた。背景には、1)ドル調達金利であるLibor(ロンドン銀行間取引金利)の急上昇、2)資本規制の重石、3)先行きの銀行の信用力および調達リスクへの不安などがある。
Libor金利は、予想通り4月以降は上昇が一服しているものの、昨年比1.1%ポイントも高い水準で高止まりしている(図表5)。この分邦銀の調達コストは大幅に上昇しており、各行ともに最大の懸念材料としている。
昨年12月に決定したBISの国際資本規制の変更についても、概ね予想通りの内容とはいえ、当面邦銀にとっては重石である。変更後、資本比率は現在見えているよりも2ポイント程度低下してしまう。この変更の適用は4年後以降だが、各行ともすでに適用後の数字を意識している。
加えて、邦銀のPBR(株価純資産倍率)は0.6~0.7倍と低迷していることから、各行とも自己株取得も活発化させている。大手行5グループのうち、3グループ(MUFG、SMFG、SMTH)が18/5月の決算発表で自社株買いを発表した。このように資本の"有難味"が増す一方、銀行の親密先による大型M&A案件や設備投資等、優先すべき案件も増えている。邦銀は、資本の実質的な余裕度が低下していることから、これまでのように海外資産増強に邁進するのは難しい。
更に、中長期的な懸念材料として、日本の財政問題による格下げリスクもくすぶる。日本の海外与信額は400兆円を超え、その75%がドル建てで、その大半は短期で調達しているとみられる。もし消費増税延期や財政の悪化によって日本国および邦銀の格付けが引き下げられれば、外貨調達条件の悪化は必至である。そうなれば、経営に対し、かつてに比べて遥かに大きな悪影響を及ぼすことになるだろう。
これらの点から、国際舞台で最後まで積極姿勢だった邦銀にも、ついにスローダウンの兆しが見えてきた。邦銀は高リスク国に対する直接の貸出額は少ないものの、様々な国際与信が間接的に新興国全体の資金繰りを助けている。新興国のリスクについては、ファンダメンタルズに加えて、こうした資金の流れにも細心の注意を払う必要がある。当面、新興国の為替や株式、投信等への投資は減らしておく方が無難であろう。