● 米銀株が堅調だ(図表1)。28日に発表されたFRBの健全性検査「ストレステスト」で、制度が開始以降初めて全34行が合格。事前予想以上の良い結果となった。

● 対象行は予想純益の「100%」の還元が可能になったため、前期比+40%の増配と+80%の自社株買い枠を発表。健全性が確認されたことで、規制緩和議論も進め易くなる。

● 米金融株は、FRBの利上げと自社株買いで金利収入増加、EPS上昇が予想される。特に規制緩和期待の大手行に強気。当面材料不足の邦銀株からのスイッチも検討したい。

米ストレステストの結果は予想以上に良好

6月28日、米金融機関34行に対する健全性検査、いわゆる「ストレステスト」の結果がFRBから公表され、今後1年程度の資本計画が当局に承認された(注)。

これによれば、現在の検査開始以降初めて、全行が「合格」となり、提出済みの株主還元計画が承認された(キャピタルワンのみ条件付認可で、年内に再提出の予定)。

この結果、今期の予想利益の100%を株主還元に回すことが可能になった。昨年の株主還元性向は65%だったため、還元性向は大幅に上昇する見込みである。因みに邦銀大手行の還元性向は30~40%台(16年度最高はMUFGの48%)となっている。

各行が査定後に明らかにした増配と自社株買いは以下の通り。自社株買いは、各行1~3兆円規模と巨額に上る。(邦銀の場合、同じく前期最大でMUFGの0.2兆円)。

健全性検査がもたらすもの

今回の健全性検査で、自社株買いによるEPSの上昇とともに、規制緩和の可能性が高まるとみられる。

邦銀とは異なり、今期の米銀は利上げの恩恵を大きく受けるため、既に予想EPSの改善が見込まれていた(図表3)。更に、FRBの利上げが進み、1兆円規模の巨額自社株買いが実施されればEPSの一段の改善が見込まれるだろう。

また、大手金融機関が持つ質の高い自己資本の比率は、09年とは比較にならないくらい改善している。不良債権比率も4分の1程度まで減少し、財務の健全性は大幅に改善している(図表4)。

6月初旬に、金融規制緩和案が米議会に提出されている。銀行に危険が残っている状態で規制を甘くするのは難しい。しかし、これだけ健全性が向上すれば、銀行の財務リスクを理由に反対する意見は後退するだろう。例えば、現在毎年行われているストレステストを隔年にする、企業の成長に貢献するようなリスクテイクは過度に規制しない、などといった緩和の議論が以前よりは進みやすくなる可能性がある。

米大手金融機関に注目。利上げペース、規制緩和が焦点

今後の規制緩和にしてもFRBの利上げにしても、ペースについては、さまざまな議論がありうる。一時的な金利の変動で金融株は短期的にマイナスの影響を受けることもあるだろう。

しかし、いずれにしても、米国では、金融機関の成長にとって最適な環境に向かいつつある。健全性検査前まで金融株は総合指数に比べて上昇が鈍っていた(前掲図表1)。規制緩和への厳しい道のりや、金利の低下が響いていたと思われるが、これらはタイミングの問題であって、方向性は間違いなく金融機関にとってプラスの方向に向かっている。

更に、今回、着実な健全化が確認できたことで、規制緩和の議論の阻害要因が一つ取り除かれた。残るのは、過去危機を誘発した金融機関の"前科"に対する野党や国民の反発であるが、これも、規制緩和が企業などの成長を後押しするものについては突破口が見えてくるだろう。

一方、邦銀は、金利上昇のきっかけは依然として見えず、本業のトップライン収益拡大は容易ではなさそうだ。株価は低位に留まっているものの、強気になれる材料に乏しい。当面の邦銀のテーマは、「構造改革」という名の経費カットである。それはそれで評価されるべきではあるが、やはり低金利継続と競争激化でトップラインが縮小していては、株価の押し上げには限界がある。

これらの点から、当面、金融業界の中では、邦銀よりも米銀を優先したい。日本の大手行から米大手6行(例えば、バンク・オブ・アメリカやモルガン・スタンレーなど、図表5参照)へのスイッチも一考に価するだろう。