● 銀行の17/3期決算発表と大半の説明会が終了。17/3期の平均3%の減益は想定通りだが、18/3期会社予想は、東証銀行セクター86銘柄中51銘柄が二桁減益と保守的。

● 一方株主還元は、大多数の銀行が減益ながら配当は維持。配当利回りは平均2%強と引き続き高い。予想が保守的な分予想配当維持の可能性大。

● 業界全体の成長ストーリーは描きにくいが、海外、国内の特定業務など一部には拡大余地も。高配当、海外、国内成長期待などの注目銘柄を挙げる。

I. 大手行の当期利益の実績と見通し:保守的な18/3期計画

邦銀の17年3月期決算は、利鞘の低下や与信費用戻入益の減少、外債の運用損失などが目立ち、上場先86行平均で3%の微減益となった(図表1)。2期連続減益(大手行では3期連続)ではあったが、17/3期はマイナス金利導入がフルで効いた最初の年度でもありサプライズはなかった。

より注目されたのは、18/3期の会社予想の弱気度合いである。当期利益は上場銀行合計で3.8兆円と、前年から平均6%の減益予想となっており、株価の重石となっている(図表2)。

なかでも、北越銀行、秋田銀行、みちのく銀行、山梨中央銀行など21行では、17/3期、18/3期予想と2期連続で二桁の減益を予想している。

減益見込みの背景は、利鞘低下、有価証券売買益の減少、与信費用戻入益の低下などである。貸出は増加を見込んでも、利鞘の低下の影響の方が圧倒的に大きかった。

国内貸出金利回りは、17/3期に全行平均10bp低下し(1bp=0.01%)、日銀のマイナス金利導入の影響は消化し切った。それでも、まだ今期も5~6bp程度低下が続くとみられる(図表3)。

しかも、これまで利鞘が厚かった長期貸出の利回りが急速に低下している。通常、長期貸出は短期よりもリスクが高い分、金利にプレミアムが乗せられるはずだが、これが殆どなくなってしまっている(図表4)。預金から貸出を差し引いた"預貸ギャップ"が史上最高の239兆円に上るなど預金が集まりすぎ(図表5)、貸出競争が激しさを増していることを如実に表している。

競争激化が続くことから、国内貸出利回りの低下はあと2~3年は続くと予想される。平均利鞘が1bp(100bp=1%)下落する毎に、銀行業界全体で約450億円、うち大手行で約200億円強の利益が減少する(税引前利益に対し0.5%程度)。大きな額ではないが、基幹業務のマイナス継続の意味は大きく、他の成長分野を探すか、業務の効率化を進めることが一段と強く求められる。

マイナス金利の世界で成長分野を探すのは難しいが、他の分野よりは期待できる分野は以下の通りである。現在銀行業界の株価は基幹業務の減益を織り込んで割安になっている(後掲「図表12:業種別ROE vs PBR」。成長分野がある程度減益を食い止めるようになるだけでも、株価の押し上げ要因になりうる。

II. 成長が見込める分野は?

1)大手行の海外貸出

17/3期の3メガバンクの海外貸出は、やや勢いは鈍ったものの堅調な伸びとなった。一時は外貨調達の制約で成長目標をトーンダウンする銀行もあったが、18/3期は、前期同様か、それ以上の成長を見込む。

これは、国内の成長がますます難しくなってきたことに加え、ドル調達に余裕が出てきたためである。外貨預金の増加や、円をドルに転換するスワップコストの落ち着きが背景にある。

とりわけ、MUFG(8306)では、もともと海外貸出の額も比率も高い上、勢いのある米国に特に強いことから、安定的な成長が見込めるだろう。同行では、既に海外業務が運用以外の収益の40%を占める。他の2メガは30%程度であり、一歩抜け出している。米国に商業銀行子会社を持つことに加え、格付も邦銀の中では高いので、外貨調達がしやすい。その割には株価はPBRもPERも優良地銀と同レベルであり、米銀に比べて圧倒的に低いことから、上値余地は大きい。

2)国内の高金利貸出 国内貸出も安定的に3%程度成長している。昨年度特に伸び率が高かったのは、カードローン、不動産、アパートローンなどである(図表8)。

これらの貸出は、当局や日銀、日弁連などがこれらの貸出の行き過ぎを警戒し始めたため、足元では勢いが衰えている。それでも、通常の法人融資を上回る伸びを予想する銀行が多く、利回りも圧倒的に厚い。これらの業務を拡大する銀行では、資金利益の下落が小幅で済むだろう。

3)地銀の広域貸出 地銀、特に大手地銀では、地元以外に進出することで貸出増加を図る銀行が多くみられる。地元銀行よりも利鞘を低めに設定していると思われることから、地銀の利鞘低下を長引かせる要因になるものの、攻める側の方が攻められる側よりはマシである。例えば、京都銀行、千葉銀行、群馬銀行等々、県内トップ地銀が、周辺地域への攻勢を強めている。

III. 株主還元:減配リスクは限定的で高配当続く

18/3期は減益予想としている銀行が64行と大半を占めるにもかかわらず、減配予想は11行に留まった。それ以外は6行が増配(図表9)、69行が配当維持を発表している。

大手行では、SMFG(8316)とりそな(8308)が増配を予想している。MUFG(8306)は18円を維持しつつ、これまで同様上限1,000億円の自社株買いを発表したのに対し、三井住友トラスト(8309)は、昨年の同時期は上限80億円の自社株買いを発表したが、大幅減益等を背景に今年は見送った。

これらの結果、銀行の配当利回りは高水準となっている (図表10)。更に、今期以降に増配の可能性がある銀行としては、三井住友FG(8316)、ふくおかFG(8354)などが挙げられる。

三井住友FGは、今期スタートした中期経営計画中に「配当性向40%を目指す」(今期計画は35.8%)としている。ふくおかFGは、配当性向30%程度で当期利益ごとの配当金目安のテーブルを示している。今期当期利益予想の490億円が達成されると一株当たり配当は15円とされるが、500億円以上に増加すれば配当の目安は17円に切り上がる。

各行ともに、今期は、配当予想のカットのリスクは極めて低いだろう。過去銀行が配当予想を引き下げたのは、不良債権処理費用や有価証券で巨額の損失が発生したときのみである。しかし現在、不良債権比率は史上最低水準となっていることから、処理費用は、貸出額に対して0.05%、業務純益に対して1割程度の低位で推移するとみられる。

また、有価証券についても、17/3月末で計12兆円を超える含み益があり(税引後)、その気になれば益出しは十分可能である。従って、当期利益が大幅に会社予想から下ぶれ、配当予想切り下げに至るというシナリオは極めて考えにくい。

IV. 投資スタンスと注目銘柄:業界全体に妙味はないが、一部の銘柄は注目に値する

全体にはなかなか成長が見込みにくい業界ではあるが、株価は引き続き割安である。東証上場銘柄の主要業種中で、PER、PBRともに最低水準に留まっている。加えて、配当利回りも高い上、配当維持の確度は高い。

このため今すぐ保有銘柄を売却する必要はないが、これからの買い増しに向くのは、一部の成長分野に強い銀行か、高配当の銘柄に限定されるだろう。

注目銘柄は、高利回りのあおぞら銀行(8304)、今後の還元強化期待の三井住友FG(8316)、海外の景気拡大の恩恵を受ける三菱UFJ FG(8306)、大幅減益から持ち直し期待の三井住友トラスト(8309)、国内収益増加見込みのふくおかFG(8354)、千葉銀行とのアライアンスで業容拡大中の武蔵野銀行(8336)、他県への広域営業で業容拡大中の京都銀行(8369)などである。