ワールドが、自ら非上場化することを決めました。寺井社長という方は、本当に凄い人だと思います。経営者(経営陣)による自社の買収という形を取るので、一風変わったMBOになります。

今回の判断には、多くの示唆が含まれていると思います。究極の買収防衛策という評もあるようですが、会社の正式なリリース文の中に書いてある通り、「経営環境の変化に柔軟に対応した機動的な経営戦略や施策を短期的な業績の変動に左右されることなく迅速に遂行する体制を整備するとともに、さらに自己責任を明確にした経営体制への転換を図るため」に行うのでしょう。多くの企業が”防衛”策を考え、或いは多くの金融機関が”防衛”策を提案する中で、本当にすべきことは何か、積極的にすべきことは何かを真剣に考えた経営者に敬意を表したいと思います。業績が絶好調の時に果敢にビジネスモデルの転換を遂行してきた寺井社長の真骨頂ではないでしょうか。

私はかつてゴールドマン・サックスという、世界を代表する金融機関でありながら非公開企業であり、経営陣がみんなで会社を共有している会社に勤めていました。そして私もその共同経営者、即ち経営者でありながら株主でもあるという立場に居ました。今ではゴールドマンは株式公開をして上場企業になった訳ですが、上の「」の中に書かれたワールドの非上場化の理由は大変良く分かります。私はまさに、その逆のことがゴールドマンに起こったと感じてきたからです。

何よりも驚くのは、公開企業であることのデメリットを、或いは非公開企業になることのメリットを、公開企業であり続けながら、寺井社長は鮮明に想像されたということです。もうひとつ思うのは、株主が企業を選ぶ時代が来たと感じ始めていたら、実は企業が株主を選ぶ時代もすぐそこに来ているかも知れないということです。勿論、結果は神のみぞ知ることでしょう。しかしこの英断の行方を、注意深く見守っていきたいと思います。