レストランの中で、サマンというカジノに詳しいトレーダーが、ブラックジャック、バカラ、ルーレット、クラップスなどのルールを詳しく説明し始めました。どうゲームをするかというだけでなく、極めて正確に、掛け金と配当の関係を説明しました。アーブ・デスクの他の連中は、細かい質問をするかと思うと、何処かで一旦納得するとすぐに次のゲームのルールに移っていくのでした。
そうこうすること約30分。一通りの説明が終わると、そこにいた中で一番シニアなトレーダーであるERが私に聞きました。「オーキ。どのゲームをするんだ。」私はバカラと答えました。期待値が、勿論100%よりは低いのですが、一番高かったからです。すると連中はみんなで笑い始め、私はサッパリ訳が分かりませんでした。下手な英語で理由を聞くと、暫くは笑って相手にしてくれなかったのですが、ようやくニヤニヤしながら教えてくれました。「オーキ。どれをやっても長い時間やれば負けるよ。期待値が100%以下なんだから。90%も97%も大した差じゃない。負けるだけだ。唯一勝つ方法があるとすれば、ゲームオーバーとなるカジノ側の最大損が小さいゲームで、一気に潰しに行くしかない。」
私たちはいざホールに繰り出し、カジノがいくら負けたらゲームオーバーとなるかを表示した額が一番小さいものを探しました。100万ドル。50万ドル。遂に私たちは25万ドルのクラップス・テーブルを見つけ、総勢17名でそのテーブルを占領しました。他のお客さんには離れてもらい、私たちだけで文字通りテイク・オーバーしたのです。
私たちは全員で同じサイドに賭けて、サイコロを振り続けました。難しい賭け方はせずに、最も単純な○かXか的な賭け場所に、みんなで同じサイドに賭け続けました。途中どんなに形勢不利になろうと、全員で同じサイドに賭けて、ひたすら振り続けたのです。そして遂に、呆れるディーラーと、興奮するギャラリーを前に、私たちはそのテーブルをバンクラプト(破産)、即ち25万ドル以上勝って、そのテーブルを閉鎖させました。ところがアーブ・デスクの連中は、さして興奮するでもなく、一旦ハイ・ファイブをしたあとは、クールにその場を離れていきました。
或る意味で甘さの全くない、そして肝の座った、アーブ・デスクの行動パターン。学校を出て1年足らずの私には、十分すぎる刺激だったのでした。