記念すべき金融列伝の第一回はTKさんの話をしたいと思います。TKさんは私の最初のボスです。当時TKさんは、或る外資系証券会社の東京のヘッドとしてマネージメントをしていたのですが、一度だけ『昔取った杵柄』ということで、スーパーセールスの片鱗を見せたことがあります。

或る日、債券トレーディング・デスクにどうしても売りたい債券のポジションが出来ました。セールスは大手機関投資家に一斉に電話を掛けて営業をしたのですが、中々思うように売れずに苦戦していました。同じフロアに座っていたTKさんは我慢が出来なくなり、誰にも言わずに電話を一本架けました。短い会話を終えて電話を置くと、トレーディングデスクのヘッドに向かって大声で叫びました。「オイ、売ったぞ!」「いくらだ?」「いくらがいいんだ!」・・・・・このやり取りを聞いていた我々は皆唖然としました。

「●●万円だったら、何でも買うよ」というのと「■■だったら、いくらでも買うよ」という二通りのケースがあるとすると、金融的には前者の方が遙かに簡単な取引であり、後者は「いくらでも」という幅が100億円単位であったりもする訳で、通常ではあり得ないことです。真のスーパーセールスとは、何でも売れる人ではなくて、いくらでも売れる人だということを私は思い知らされました。これが大学を卒業して1、2ヶ月後の洗礼でした。

もう15年以上も前の話で、かつプロの間だけの出来事ですから、現代の個人相手の証券会社では決して起こらないことだということを念のため申し添えておきます。