世の中には色々な妙なものが存在しますが、私の知っている下町のゲルマニウム温泉(場所、名称は秘密です)はかなり妙です。温泉と云っても、服を脱いで風呂に入るのではありません。行くと浴衣を渡されるので、その浴衣に着替え、高校の理科室の試験管を洗う洗面台のような無機質なステンレスの二段桶の前に座り、裾と腕を捲って、足と腕だけを薄緑色の熱いお湯に浸けます。最初はこれで温泉かぁ?と思うのですが、そのうちに全身から汗が噴き出してきます。規定時間20分が経つと、手拭い一本で汗を拭くだけなのですが、どういう訳か全然ベタベタとせず、元の服に戻っても、肌も気持ちもサッパリなのです。親爺に云わせると、肩凝りの類は3日連続で浸かれば必ず治り、しかもここで治した肩凝りは二度と出ないと云います。本当でしょうか?店(と云う表現が適当か定かではありませんが)の雰囲気も、ゲルマニウム温泉自体もそしてその効用も、そして何と云っても親爺の言動も、全てがかなり妙であり、しかし愛すべき空間です。此処を出て、近くの墓地を散歩すると、心身共にリフレッシュできます。こんな通常現実からスリップできる場所は大切にしたいですね。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。