「君ならで誰にか見せむ梅の花色をも香をも知る人ぞ知る」。古今集に収められた、紀友則の春の歌です。「この良さはあなたにしか分かりません」という、ストレートでシンプルな歌ですが、梅の花の素晴らしさを讃えた歌とも取れますし、「君」に対するラブレターとも取れます。一方で「君」は異性ではなく同性であるという説もあり、そう考えるとお世辞の歌とも取れます。私にはこの歌は、相手が同性であれ異性であれ、同じ価値観を持つ人に対する親しみの表現というか、他人と同じ価値観を持てた時の喜びを表しているように取れます。このような感覚は、その対象物は花に限ることもなく、あらゆる造形、文化、人、考え方、更には政治などにまで及び得ると思います。価値観が共有されると、そこにムーブメントが生まれます。これはマーケットも全く同様です。というか、マーケットにムーブメントが起きている時には、逆にその底流にある共有された価値観を理解することが肝要だと思います。今の株式市場も、流れに棹さすように、その本質を見極めることが大切ですね。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
-
ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。