先日ふらっと寄った書店で、「総特集 色川武大VS阿佐田哲也」(河出書房新社)という本を見つけました。一月ほど前に既に出版されていたようで、今迄気付いていなかったのは不覚です。何度もつぶやきに書いていますが、阿佐田哲也は大好きな作家です。私の読書はかなり偏っていて、阿佐田哲也、坂口安吾、山田風太郎、(詩人ですが)萩原朔太郎の4人で、日本の作家の全体の読書量の4分の3程度に到ってしまうのではないかと思ってしまいます。まぁ恐らく錯覚であり、実際にはもっと分散されているとは思うのですが、感覚的にはそれほど偏っています。この4人の中で、阿佐田哲也だけはちょっと他の人に比べてユニークな存在です。マーケットの心理やトレーディングの極意に通じる、実社会に適用できるような概念について小説としていることや、本名の色川武大と阿佐田哲也というペンネームの2つ(実際にはもっとあったのですが)を使い分けていることなどが、他の作家にはない特色だと思うのですが、個人的にはもうひとつ特別な理由があります。私は色川武大さんに会ったことがあるのです。中学・高校の先生が色川武大さんと麻雀をする仲で、高校2年の頃だと思うのですが、一度その先生の家に遊びに行った時に、色川さんが来ていました。奥の狭い部屋で、(あれは麻雀に使える卓だと思うのですが)ちゃぶ台のような低い卓の奥側に、部屋の入口の方を向いて畳の上に胡座をかいて座っていました。私は立ったまま部屋に入っていき挨拶をしてみたのですが、上目遣いで「ギロッ」と一瞥だけされました。地獄の黙示録の最後の方でマーロン・ブランドの顔がぬぅっと出てくるような、そんな威圧感と存在感があり、今でも克明に私の目に焼き付いています。あの頃はまだ名前しか知らず、作品をちゃんと読んでいませんでした。一生の不覚です。聞きたいこともあっただろうし、ミーハーにサインでも貰っていれば、麻雀する時のいいお守りになったかも知れない。もう取り返しはつきませんが、懐かしい思い出です。