私は殆ど本をしっかりと読まないで、つまみ食いをしたり、要約だけを読んだりばかりしているのですが、飛行機の中で久し振りにちゃんと一冊の本を読もうと、或る本を持ってきました。
「α(アルファ)を探せ!」という本で、「最強の証券投資理論−マコ−ヴィッツからカーネマンまで」という副題が付いています。アメリカで3年ほど前に出版された本の翻訳本で、日本では極々最近出版されたばかりです。
まだ12章あるうちの1章を読んだだけなのですが、或る程度のファイナンス理論の知識がないと分かりにくいかも知れません。しかし、なかなか読み応えがあります。市場全体のリターンに勝つことは可能か、分散投資のメリットはあるのか。経済学会のスーパースター・ケインズの一般理論から、モダンポートフォリオ理論、更には投資家の心理的側面に迫った後悔理論、行動ファイナンスまで、投資や投機にまつわる学説の変遷を中心に書かれています。
しかし「お金儲け」という、或る意味で人のもっとも興味のある分野に於ける70年に亘る叡智の結集ですから、科学的にも、哲学的にも中身の濃いものです。私にとっては一応一度は勉強したことなのですが、まとめておさらいすると、頭の中が整理されて、また刺激されて、大いに楽しんでいます。ちょうど渋沢栄一翁の子孫である渋澤健さんからのメール・レターで「投機とは」という小文も機中で読みました。その中で渋澤さんは、『仏教大辞典によると、投機の本来の意味は「禅宗では機機投合の意。修行者の大悟徹底して、とらわれない心機と、仏祖の心機が投合すること。また修行者の心機と師の心機がぴったり一致すること。」とのことである。将来の予測が限界を超える中、ぴたりと心機が合うことが投機ということであろうか。どうやら、我々が一般的に考えているより、「投機」の意味は古く、深いらしい。むしろ、「投資」という言葉のほうが新しい言葉のようだ。』と書かれていました。いやはや、なかなか深い話です。この機会にしっかりと考えを巡らせたいと思います。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。