利食いと損切りのタイミングは、トレーダーにとっての永遠のテーマです。私も何度かつぶやきの中で話してきました。この永遠のテーマにつき、或る程度の答えというか考え方のフレームワークを提供したのが、昨年ノーベル経済学賞を取ったダニエル・カーネマン教授の行動経済学・プロスペクト理論です。800ドル貰えるのと、1000ドル貰えるが15%の確率で返さないといけないのとでは、大概の人は800ドル貰える方を選び、逆に800ドル払うのと、1000ドル払わなければいけないが15%の確率で返して貰えるのとでは、大概の人は後者を選ぶ。人は得している領域では安定を好み、得を確定したがり、損している領域では変動を好み、リスクを取りたがる、しかもその行動は経済合理的ではない訳です。
この結果、利食いは早くしてしまい、損切りは遅くなることになります。これはなかなか頷ける理論なのですが、要は経済学と心理学の合体です。この手の心理というのは他の場面でも出てくると思います。
例えば阪神ファン。これだけ勝っていれば優勝しかあり得ないと思うのですが、前にも書いたことがあるように大阪の街は冷静です。どんなに勝っても安心できないのでしょう。負けがこんでいる時の方が熱狂していたこととの対比が愉快です。85%の人はラショナル(合理的)でなく、エモーショナル(感情的)に判断を下すとも言われます。自らの心理を客観的に観察できるようになると、トレーディングも免許皆伝でしょうか。しかし、なかなか難しいですね。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。