長期投資の対象として株を買う時には、会社の収益力などを評価・計算して、「この会社なら株価がいくらであれば投資価値がある」と考えて、その値段で指し値で買いを入れるということも出来ます。一方トレーディングの場合には、どちらかというとある瞬間に−それはニュースがきっかけの場合もあれば、チャート上で重要なレベルを超えた場合もあれば、単にひらめいた場合もあるでしょうが−急に買いたくなる時があります。そのような場合にいつも抱える悩みとして、例えば1000円カイ、1010円ヤリの株を買おうと思った時に、1000円に買いを入れて打たれるのを待つのか、1010円のヤリを積極的に買いに行くのかという問題があります。株価は一般に小さな波動を伴いながら大きな波を描く、ということを考えると、1000円で買いを入れても買えそうですし、その方が10円トクな気がします。しかし10円をケチったばかりに買い損ねて、100円、200円の波を取り逃すかも知れません。
プロのトレーダーでもこれは分かれます。しかし損切りする時のことを考えると、10円をケチって売り損ねるよりも、売るならきちんとその場で売ってしまった方がいいように、大勢の人が感じます。相場は短期的にはほぼ線対称ですから、私はこの感覚の方が新規にポジションを取る時でも正しいと思います。即ち、この例では1010円を買いに行った方がいいと思っています。但し買う理由にも依ると思います。要は10円のビッド・オファー・スプレッドと、待つか取りに行くかという時間の価値の比較ですから、ニュースが理由で買う時には待ってはいけないと思いますし、単なるひらめきの場合にはちょっと前や後にひらめいたかも知れないので、10円払わずに待った方がいいと思います。あくまでも昔トレーダーだった一人の人間の意見です。しかしトレーダーは舌の根が乾かぬうちに前言を翻すのが本職ですから御注意を。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。