ワールドコムの38億ドル(4600億円)の粉飾決算疑惑には流石にビックリしました。費用として計上すべきものを設備投資として資産計上し、要は費用を延べて先送りしたという類の問題のようです。オーソドックスな会計操作の手法の1つでしょう。アメリカの企業会計に対する不信は当面払拭できないでしょうが、一部の論調にあるような「アメリカも大したことない。日本とさ程変わらないではないか。」と言うのはちょっと早計ではないかと思います。ワールドコムは会計『処理』の問題であり、かつ疑惑が出てきてから3ヶ月程の間に株価は1ドル未満にまで売り込まれました。即ち強制退場が間近にまで迫っています。日本ではどうでしょう?
例えば銀行の不良債権問題。償却済みと言われながら、毎半年ごとに数千億円単位で新たに償却額が増加します。これは『処理』ではなく『評価』の問題ですが、投資判断などを誤らせるという意味に於いてはどっちもどっちでないでしょうか?かつ、株価は大して売られません。退場のプレッシャーが働かない訳です。私は処理の問題よりも評価の問題の方が、根元的な価値の問題であるので、どちらか選ばなければいけないとしたら、より大きい問題のように思えますし、少なくとも問題が発覚した場合には速やかに強制退場させようとする自浄作用が働くという点において、やはりアメリカの方が進んでいるのではないかと思います。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。