ちょっと古い話になりますが、例の東京スタイルの件は中々興味深いものがありました。もっとも印象的だったのは、各紙が報じていた以下の2つのコメントです。1つは古くからの銀行株主のコメントで、「我々は長い年数株主として会社を支援してきた。最近急に株主になったばかりの村上氏が500円という高額配当を要求するのは理解できない。」というもので、もう1つは投信運用会社のコメントで、「100円の配当を5年間で、という提案だったら賛成していたかも知れない。」というものです。
この2つのコメントは、一見常識的なように聞こえますが、株式資本主義の仕組みというものを理解していない暴論であると言わざるを得ません。株主には年功序列はありません。昔から保有している株主も、昨日買った株主も、また持ち値にも関係なく、みな衡平に扱われるべきです。ただ、10倍株式を持っている人は10倍議決権を持っている、それだけのことです。そうでなければ公開株式会社の仕組みが成り立ちません。また、債券のクーポンでもあるまいし、5年に亘っての配当の決議なども出来る筈がありません。銀行や運用会社が「株式会社」の仕組みを理解していないというのは、唯々唖然としますが、それをそのまま注釈もしないで報道しているマスコミの理解や問題意識の水準も甚だ疑わしいものです。我が国に正しい資本主義の考えが広まるには、まだ道のりは長いのでしょうか。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。