今朝の東京はどんよりとした曇り空だったのですが、天気予報に反して昼過ぎから晴れて暖かくなってきました。荷風の日和下駄にも出てくるように、東京の街は案外木々が多いものです。あたかも香を焚くように、木々に咲いた花々の匂いが風に乗って漂ってきます。それは鼻を衝くようなものではなく、あくまでもすがすがしく優しいものです。匂いのある季節は春と夏ですが、「香る」季節は春だけでしょうか。
「梅が香を袖に移してとどめてば春はすぐともかたみならまし」(読人知らず)私の好きな古今集には「香る春」と「聴く秋」の歌が圧倒的に多いのですが、それも肯けます。香りを留められるのは、実は袖ではなくて歌だったのでしょう。だから皆競って「香る春」を詠んだのではないでしょうか。