1976年8月31日、米国で「First Index Investment Trust(ファースト・インデックス・インベストメント・トラスト)」という投資信託が設定されました。これが現在の「Vanguard 500 Index Fund(バンガード500インデックス・ファンド)」です。S&P500への連動を目指すこのファンドは、個人投資家向けとして初めて設定されたインデックスファンドで、現在につながるインデックス投資の出発点となりました。
それからちょうど50年。2026年は、個人向けインデックスファンドの誕生から50周年という節目にあたり、米国だけでなく日本でも、これにちなんだセミナーなどさまざまな企画が行われています。
そこで今回は、インデックスファンドの基準となる「インデックス(株価指数)」に目を向けます。日経平均株価やTOPIX、米国のNYダウやS&P500など、株価指数にはそれぞれ異なる特徴があります。では、私たち投資家にとって「使いやすい株価指数」とは、どのような指数なのでしょうか。
株価指数にはさまざまな目的があり、それに応じた種類がある
そもそも株価指数は何のために使われるのでしょうか。株価指数にはさまざまな目的があり、その目的によって、指数に求められる性質も異なります。
まず、最も身近なのが「株式市場の動きを表す物差し」としての役割です。例えば、日経平均株価が上昇していれば日本の株式市場が上昇傾向にある、S&P500が下落していれば米国の主要企業の株価が全体として下落している、といったように、市場の動きを1つの数字で把握することができます。個別銘柄だけを見ていては分かりにくい、市場全体の方向性を知るために株価指数が使われます。
こうした目的で使われる株価指数には、指数の値が恣意的に決められないという「客観性」、どのような銘柄で構成され、どのような方法で算出されているのかが明らかであるという「透明性」に加えて、指数の動きから市場の状況を直感的に把握できる「理解容易性」が求められます。
2つ目は、運用成果を評価するための基準としての役割です。これを「ベンチマーク」と呼びます。例えば、日本株を運用するファンドが1年間で10%上昇したとしても、それだけでは運用成績が良かったのかは判断できません。同じ期間にTOPIXが15%上昇していれば、市場全体に比べると運用成績は振るわなかったことになります。反対にTOPIXが5%しか上昇していなければ、市場平均を上回る運用成果を上げたことになります。このように、運用成績を比較・評価するための物差しとしても株価指数は重要です。
ベンチマークとして使う場合にも「客観性」と「透明性」は必要ですが、それに加えて重要になるのが「市場代表性」です。運用成果を市場全体と比較するためには、その指数が運用対象となる市場の値動きを適切に表していなければなりません。例えば、日本株全体に投資するファンドの成果を評価するのであれば、比較する指数にも日本の株式市場を幅広く反映していることが求められます。
3つ目は、実際の運用対象としての役割です。インデックスファンドやETF(上場投資信託)は、TOPIXやS&P500など特定の株価指数への連動を目指して運用されています。そのため、指数は単に市場の動きを示す数字であるだけでなく、実際の資金を運用するための設計図にもなります。
この場合には、「客観性」と「透明性」に加えて、明確なルールに基づいて指数と同じようなポートフォリオを組むことができる「再現性」や、構成銘柄に十分な流動性があり、実際に売買して運用できる「投資可能性」が重要になります。指数としては優れていても、構成銘柄の売買が難しければ、その指数に連動するファンドを実際に運用することは難しくなります。
つまり、株価指数に共通して求められるのが「客観性」と「透明性」であり、そのうえで、市場の動きを把握するためには「理解容易性」、運用成果を測るベンチマークには「市場代表性」、実際のインデックス運用には「再現性」や「投資可能性」が特に重要になると考えられます。
このほかにも、特定の業種や企業規模、投資スタイル、テーマなどに着目したさまざまな株価指数があります。ただ、そこまで広げると話が複雑になるため、今回は「市場全体の動きを表す株価指数」に絞って考えてみたいと思います。
日経平均とTOPIX、投資家にとって使いやすいのは?
こうした株価指数の役割を考えるうえで、私たちに最も身近な例が日経平均株価でしょう。日経平均は、日本の株式市場の動きを表す代表的な指数として長年使われてきました。毎日のニュースでも、その日の上昇幅や下落幅が円単位で伝えられるなど、多くの投資家にとってなじみが深く、市場の動きを直感的に把握しやすい「理解容易性」の高い指数といえます。
一方、日経平均は単に相場の動きを見るためだけの指数ではありません。日経平均への連動を目指すインデックスファンドやETFも数多く存在しており、実際の運用対象としても使われています。つまり、日経平均には市場の動きを分かりやすく示すだけでなく、実際に投資できる指数としての役割も求められています。
そのため、指数を算出する側も、時代の変化に合わせてルールを見直しています。実際、日本経済新聞社は2026年7月、日経平均の構成銘柄を選ぶ基準などの改定を発表し、10月1日から新しいルールを適用しました。
今回の変更の1つが、構成銘柄を選ぶ際に使う業種区分の見直しです。日経平均では、特定の業種に銘柄が偏らないよう、業種をいくつかのセクターにまとめ、そのバランスを考慮して225銘柄を選んでいます。今回の改定では、これまで6つだったセクターを7つに増やし、従来は「技術」に含まれていた「情報・通信」を独立したセクターとしました。
背景には、情報・通信関連企業の存在感が高まり、日本の産業構造や株式市場の姿が変化していることがあります。株式市場の動きを表す物差しである以上、産業構造の変化に合わせて、構成銘柄を選ぶ仕組みも見直していく必要があります。今回の変更は、日経平均を現在の日本の株式市場の姿に、より適した指数にしていくための取り組みとみることができます。
このように、私たちが普段何気なく目にしている株価指数も、同じ仕組みがずっと使われ続けているわけではありません。市場や産業構造の変化に合わせて、指数を算出する側も、その役割を果たせるようルールを見直しているのです。
しかし、こうした見直しが行われても、日経平均が持つ基本的な特徴は変わりません。日経平均は225銘柄の株価をもとに算出する「株価平均型」の指数であるため、株価水準の高い銘柄、いわゆる値がさ株の値動きが指数に与える影響が大きくなります。実際、アドバンテスト(6857)や東京エレクトロン(8035)など一部の値がさ株の上昇・下落が、日経平均全体の変動に大きく寄与する場面も少なくありません。そのため、日本株市場全体の運用成果を評価するベンチマークという観点では、日経平均とは異なる特徴を持つTOPIXにも目を向ける必要があります。
TOPIXは、構成銘柄の時価総額を基準に組み入れ比率を決める「時価総額加重型」の指数です。企業の市場での規模が指数への影響度に反映されるため、一部の値がさ株の株価水準に指数全体が左右されにくく、日本株市場を幅広く捉えるという「市場代表性」の面では、運用成果を測るベンチマークとして妥当性が高いと考えられます。
つまり、日経平均とTOPIXのどちらが優れた指数かという単純な問題ではありません。日々の相場を把握するうえでは、長年使われてきた日経平均の理解容易性には大きな利点があります。一方、日本株市場全体に投資する運用の成果を評価するという目的では、市場代表性を重視したTOPIXの方が、その目的に適した性質を持っているといえるでしょう。
TOPIXが大きく変わる!銘柄入れ替えが投資機会にも
そして、そのTOPIXも大きく変わろうとしています。2026年10月30日(10月最終営業日)から、TOPIXの構成銘柄を選ぶ新しいルールの適用が始まります。
今回の見直しで大きく変わるのが、TOPIXの構成銘柄の選び方です。これまでは東証の市場区分と結びついた仕組みとなっていましたが、今後はプライム、スタンダード、グロースといった市場区分から切り離して銘柄を選びます。どの市場に上場しているかではなく、株式の流動性や時価総額などを重視して銘柄を選ぶ仕組みに変わるのです。
その狙いは、日本の株式市場を幅広く捉えるというTOPIXの「市場代表性」を保ちながら、実際の運用にも使いやすい指数にすることです。規模が大きく売買も活発な銘柄であれば、スタンダード市場やグロース市場から新たに採用される可能性がある一方、プライム市場の銘柄でも規模や流動性などの基準を満たさなければ除外される可能性があります。
今回の銘柄選びには2026年8月末時点の時価総額や売買代金などのデータが使われます。そして10月7日ごろには実際の選定結果が公表され、どの銘柄が新たにTOPIXに加わり、どの銘柄が除外されるのかが明らかになる予定です。その後、10月末から新しいTOPIXへの移行が始まり、2028年にかけて段階的に構成銘柄や組み入れ比率が調整されていきます。
ここで重要なのは、TOPIXが単なる「株価を見るための数字」ではないことです。TOPIXは国内株式を運用する際のベンチマークとして広く使われているだけでなく、TOPIXへの連動を目指すインデックスファンドなどの運用対象にもなっています。
TOPIXに連動する運用資産は、現在では約165兆円に達していると試算されます。2026年度の日本の国の一般会計予算は約122兆円ですから、その約1.3倍に相当する巨額の資金がTOPIXを基準に運用されていることになります。
それだけに、指数の変更には「痛み」も伴います。構成銘柄の変更が発表されると、新たに採用される銘柄には、TOPIX連動ファンドからの買い需要を見込んだ先回りの買いが入りやすくなります。その結果、正式にTOPIXに組み入れられる前から株価が上昇することがあります。しかし、この段階ではまだTOPIXの構成銘柄ではないため、その株価上昇はTOPIXの上昇にはつながりません。
一方、除外される銘柄には、実際に指数から外れる前から先回りの売りが出やすくなります。こちらは除外されるまではTOPIXの構成銘柄であるため、その間の株価下落はTOPIXを押し下げる方向に働きます。
つまり、新たに入る銘柄は「入る前に買われる」ため、その株価上昇をTOPIXは取り込めない一方、外れる銘柄は「外れる前に売られる」ため、その株価下落はTOPIXに反映されます。このため、指数の入れ替えが行われる過程では、こうした需給の偏りがTOPIXの下押し要因となる可能性があるのです。
それでも、今回の見直しには大きな意味があります。運用成果を測るベンチマークとして重要な「市場代表性」と、インデックス運用の対象として重要な「投資可能性」を高めていくためには、構成銘柄の見直しも必要だからです。短期的には痛みを伴ったとしても、より使いやすい株価指数に変えていくための過程と捉えることができます。
もちろん、長期的な株式投資で最も重要なのは、指数への採用や除外そのものではなく、企業の業績や成長力、競争力といった企業自身の魅力でしょう。指数の入れ替えによって生じる需給の偏りは、企業価値そのものが変化したわけではありません。短期的に株価が大きく動いたとしても、こうした需給による影響はいずれ修正される可能性があります。
ただし、投資のタイミングを考えるうえでは、指数入れ替えに伴う需給も無視できません。例えば、注目していた企業がTOPIXから除外されることで一時的に大きく売られるのであれば、その企業の魅力に変化がない限り、投資のタイミングを考える材料になるかもしれません。反対に、注目している企業が新たにTOPIXへ採用されるのであれば、指数連動資金からの買いがいつ発生するのかにも注目する必要があります。
さらに、今回のTOPIXの見直しは一度に完了するものではなく、2028年にかけて段階的に進められます。そのため、構成銘柄の変更に伴う株式需給は一時的なイベントで終わらず、今後しばらく市場の材料として意識される可能性があります。今後、TOPIXから除外される銘柄や、新たに採用される銘柄については、こうした需給の影響やそのタイミングも踏まえながら、投資対象として注目しておく必要があります。
