AI半導体相場の今後、そしてピークを考える上で重要なこと

足元の株式市場では、AI・半導体関連株が相場の牽引役となっています。AIの普及を背景に、AIの計算処理に必要なGPUなどの高性能半導体に加え、膨大なデータを保存・処理するためのメモリーやデータセンター向け半導体への需要拡大期待が高まっています。

では、こうしたAI・半導体相場はいつまで続くのでしょうか。AI半導体相場の今後、そしてピークを考える上で重要なのは、「AIが最終的にどのような社会を目指しているのか、そしてその実現が可能なのか」を理解することです。

足元のAI半導体相場の背景には、AI向けデータセンター投資の急拡大があります。

AI向けデータセンター投資については、「2026年頃に投資の伸び率がピークを迎え、その後は鈍化する」という慎重な見方があります。2026年は「AIインフラを一気に整備する年」と位置付けられているため、前年比で見た投資伸び率が極めて高くなる一方、一度大量のGPUやデータセンターが導入されると、その後は新設中心から増設中心の段階へ移行し、投資の伸び率は徐々に鈍化するという考え方です。

一方で、強気の見方では、AI向けデータセンター投資はまだ本格普及前の「入口」に過ぎず、2030年前後まで高成長が続くと考えられています。強気派が重視しているのは、現在、皆さんの身近にもなりつつあるチャッピー(ChatGPTの愛称)などの生成AIの普及は、AI進化のまだ初期段階に過ぎないという点です。

現在の生成AIは、「質問に答えて文章を作る」といった用途が中心ですが、今後は、人間から「これをやっておいて」と指示されるだけで、自ら考えながら仕事を進める「AIエージェント」への進化が進むと見られています。さらにその先には、人間の代わりに動くロボットなどの「フィジカルAI」も視野に入っています。こうした世界が本格的に到来すれば、AIは社会インフラの立場を確固としていくでしょう。その場合、AIを動かすための計算処理やデータ保存需要は飛躍的に増加し、データセンター需要も長期的に拡大が続くというのが強気派の考えです。

筆者はこれまで、AIを組み入れた運用モデルの開発エンジニアを経験してきましたが、その専門的な観点からも、「強気の見方」を支持しています。

世間では、AI需要が拡大しても、それに対応する供給体制を整えるためのカネやモノ、例えば電力供給やデータセンター建設、人材確保などが追い付かないことから、AI投資は限界を迎えるという慎重な見方もあります。しかし、一般に業界がピークアウトするのは、「供給過剰」に陥った時です。現在のAI分野では、むしろ需要の拡大スピードに供給側が追い付いていない状況にあります。

そしてAIの普及によって相対的に成長力が低下する可能性がある既存産業から、AI関連分野へ資本が移転していくと考えられます。

例えば、AIの普及によって、従来型の事務処理や単純な情報仲介を中心とした業界、あるいは人手による定型業務への依存度が高い業界では、相対的に成長期待が低下する可能性があります。その一方で、AI半導体、データセンター、電力インフラ、ロボティクスなど、AI社会を支える分野には、これまで既存産業へ向かっていた資本や人材が移転していくことも期待されます。

つまり、AIは単に新しい産業を生み出すだけではなく、社会全体の資本配分そのものを大きく変えていく可能性があるのです。

ITバブルは「未来を先取りしすぎた」相場だった

ただ、冒頭でもお話ししましたが、AI半導体相場の今後や将来のピークを考える上で重要なのは、「AIがどのような社会を目指しているのか、そしてそれが本当に実現可能なのか」を理解することです。

その理由を考える上で参考になるのが、2000年前後のITバブルです。

ITバブルでは、大きく2つの問題がありました。1つは、市場が将来への期待を織り込むスピードがあまりにも速すぎたことです。

ITバブルの象徴の1つが、NTTドコモが1999年2月に開始した「iモード」でした。iモードの登場によって、現在ではガラケーとも呼ばれる当時の携帯電話は、単なる通話機器から、インターネット閲覧やメール送受信ができる端末へ進化しました。

現在では当たり前ですが、「外出先でリアルタイムに情報を見る」「携帯電話でメールを送る」という体験は、当時としては非常に革新的でした。そして投資家は、「これは社会を根本から変える」と強く期待したのです。

実際、その方向性自体は間違っていませんでした。しかし市場は、「携帯電話がインターネット端末になるなら、近い将来、あらゆるサービスがネット化する」と、一気に未来を先取りしました。その結果、通信、インターネット、IT関連企業の株価は、実際の普及スピードを大きく上回るペースで上昇していったのです。

そして、もう1つの問題が、「IT社会の完成形」が当時はまだ見えにくかったことです。

2000年前後には、家庭向けPCの普及が進み、自宅でインターネットを利用できる時代にはなっていました。しかし、通信回線は電話回線利用が中心であり、現在のような高速通信環境ではありませんでした。動画配信サービスやSNSはまだ存在感がほとんどなく、インターネットは「文字と画像」が中心の世界でした。

つまり、多くの人は、現在のようにスマートフォン1台で買い物、銀行振込、動画視聴、地図検索、タクシー配車、SNS、クラウド業務、オンライン会議まで行う「ネットが社会インフラそのものになる世界」を、まだ具体的に想像できていなかったのです。

こうしたなかで、当時は「携帯電話を販売している」というだけで、IT関連株として極端に買われ、PER(株価収益率)が数百倍近くまで上昇する銘柄も登場しました。本来のビジネス自体は比較的シンプルな企業であっても、「IT関連」というだけで将来への期待が先行し、株価が大きく買い上げられたのです。こうした実態以上に期待が先行する現象は、ITバブル相場を象徴する特徴の1つでした。

AIがAIを進化させる――IT革命との決定的な違い

それでは、足元のAI半導体株相場はどうでしょうか。

確かに、現在の株価は未来を織り込んでいます。しかし、2000年前後のIT革命時代と大きく異なる点があります。それは、「AIがAI自身の進化を加速させている」ことです。

現在は、AIがプログラムを書き、AIが論文を要約し、AIが新しいAIモデルの設計を支援する時代に入っています。つまり、人間の研究者だけで技術開発を行うのではなく「AIを使ってAIを改良する」という自己加速的な構造が生まれつつあるのです。

さらに、その影響はAI業界だけにとどまりません。創薬、半導体設計、物流、金融、ロボティクスなど、幅広い分野でAIが研究開発スピードそのものを押し上げ始めています。

実際、生成AIの進化スピードは非常に速く、半年前と比べても、より自然で高精度な回答を返す生成AIが次々と登場しています。利用している読者の方の中にも、「ちょっと前より賢くなった」と感じる人は多いのではないでしょうか。ここが、ITバブル期との大きな違いの1つです。ITバブルでは、市場の期待が実際の技術や社会インフラの普及スピードを大きく先回りしていました。一方、現在のAI分野では、市場が将来への期待を織り込むスピードは速いものの、AIそのものや関連する研究・開発の進化スピードも極めて速いという特徴があります。

今の生成AIの発展に次ぐのが、目標達成まで自律的に動くAIエージェントへの発展です。そして、その先にあるのが、動くAIロボットのフィジカルAIです。その先はどうなるのでしょうか、現在のフィジカルAIのイメージは例えば配送ロボット、工場ロボット、介護ロボット、人型ロボットなど特定用途に特化したものが中心ですが、将来的には「1台でさまざまな作業をこなす汎用型」へ進化していくと考えられています。人気映画のターミネーターがイメージされます。

「弱いAI」から「強いAI」へ――AI相場の終着点はどこか

現在のAIの最先端研究を日本語で理解するうえで参考になるのが、人工知能学会のウェブサイトです。人工知能学会では、学術的な裏付けを持つさまざまな研究や解説が公開されており、AI研究の現在地を知るうえで非常に参考になります。特に同学会の「人工知能研究」という解説ページでは、「人工知能研究とは具体的に何を研究しているのか。また、その成果はどんなところに使われているのか」を紹介しており、AI研究の基本的な考え方を理解することができます。

そこで興味深い記述があります。

「人工知能(AI)とは知能のある機械のことです。しかし、実際のAIの研究ではこのような機械を作る研究は行われていません」というものです。

そもそもAI研究は、「人間の脳そのものを理解する」ことを目指して始まりました。しかし、人間の脳はあまりにも複雑で、その仕組みを完全に解明するのは極めて難しいと考えられるようになりました。

そこで1980年代以降、研究の主流は、「脳を完全に再現する」のではなく、「神経細胞(ニューロン)の働きを単純化して数学モデルとして扱う」方向へ進みました。これがニューラルネットワークです。

ニューラルネットワークという言葉を聞くと、高度で神秘的なものに感じるかもしれません。しかし本質的には、「この条件ならこちらへ進む」という単純な分岐を大量に積み重ねた構造です。そして、そこへ膨大な学習データを与えることで、徐々に正答率を高めていくというのが、現在のAIの基本的な仕組みです。

つまり、現在のAIは、「人間のように本当に理解している」のではなく、「大量データから精度の高い予測を行っている」側面が強いのです。言い換えれば、人間の理解そのものを機械で再現することはいったん脇に置き、「理解しているように見える状態」を作り上げたのが、現在のAIとも言えます。

さらに、人工知能学会のサイトでは、AIについて次のような説明もされています。

「AIは,本当に知能のある機械である強いAIと,知能があるようにも見える機械,つまり、人間の知的な活動の一部と同じようなことをする弱いAIとがあります。AI研究のほとんどはこの弱いAIです」現在のChatGPTなどの生成AIは、まさにこの「弱いAI」に分類されます。つまり、人間のように本当に理解しているわけではないものの、理解しているように見える振る舞いを実現しているわけです。

それでは、こうした「弱いAI」でありながら、なぜ自ら考えながら仕事を進める「AIエージェント」のような方向へ進化しているのでしょうか。その理由の1つは、弱いAI同士を効率的に組み合わせる技術が進化しているためです。文章生成、画像認識、検索、推論、スケジュール管理など、個別機能を持つAIを連携させることで、あたかも「自律的に考えている」ようなシステムが実現され始めています。

しかし、その先にある、人間のように本当に理解しながら行動する「強いAI」の実現については、まだ世界的にも答えが出ていません。

一方で、現在のAI研究には、「弱いAIのモデル構造をさらに巨大・複雑化し、学習データ量を飛躍的に増やしていけば、ある時点で人間の知能に近い状態へ到達するのではないか」という考え方もあります。いわゆる「シンギュラリティ(技術的特異点)」の議論です。

つまり、現在のAI研究は、「本当に人間のような知能へ到達できるのか」という壮大なテーマに挑戦している段階とも言えます。そして、この「AI社会の完成形」と、その実現可能性に対する答えが見えるまでは、研究開発競争や投資拡大が続きやすい状況が続くと考えられます。

壮大なテーマではありますが、筆者は、この「強いAI」や「シンギュラリティ」を巡る答えが出るまでは、AI研究・開発・投資は世界的に拡大が続き、その結果としてAI半導体相場も根強く推移する可能性が高いと考えています。