ロボアドバイザーの登場、NISA制度の拡充、インフレなど個人を取り巻く環境に変化

日本で本格的なロボアドバイザーが登場した2016年から10年。この間、スマートフォンで投資を始め、積み立てを続けることは格段に身近になりました。2024年には新NISAが始まり、2025年末のNISA口座数は2,800万を超え、累計買付額は71兆円に達しました。「貯蓄から投資へ」は、掛け声から日常の選択肢へ変わりつつあります。
同時に、お金を取り巻く前提も大きく変わりました。長く物価が上がらなかった日本でもインフレが定着しつつあり、現金の額が減らなくても、その購買力は低下し得ます。「老後2,000万円問題」が注目されたのは2019年ですが、2,000万円は一定の家計を前提にした試算であり、誰にとっても十分という保証ではありません。

物価だけでなく、望む暮らし、住まい、医療・介護などによって必要額は異なります。共通の金額を目標にすると、安心を得られないばかりか、使うことを先送りし、必要以上に貯め続けてしまうこともあります。

ロボアドがこの10年で果たした大きな役割は、資産配分、積み立て、リバランスなどを自動化し、相場に一喜一憂せず運用を続けやすくしたことです。近年登場した生成AIは、資金計画の試算や選択肢の比較、制度の説明など、「考える過程」まで支援し始めています。

ただし、ロボアドも生成AIも、どのような人生を送りたいかまでは決めてくれません。AIに判断を委ねすぎれば、自分で前提を確かめ、優先順位を考える機会を失う懸念もあります。技術は目的地までの経路を示すナビゲーションにはなれても、目的地そのものを選ぶのは自分です。

実現したい目標や夢を起点に資産形成を設計し、管理しよう

自分がどのような生活を送りたいか、目標や夢をもとに目標額を考える

そこで大切になるのが「ゴールベース・アプローチ」です。これは、単に資産をできるだけ増やすのではなく、旅行、住まい、子どもの教育、働き方、老後の生活など、実現したい目標や夢を起点に資産形成を設計し、管理する考え方です。

目標の時期と必要額を考えれば、求められる収益率や資産配分が見えてきます。同時に、その収益率を得るための値動きを自分が受け入れられるか、リスク許容度も確認しなければなりません。必要な収益率が高すぎる場合は、むやみにリスクを増やすのではなく、積立額、期限、目標額を見直すことも必要です。

感情ではなく計画を優先する仕組みに

計画をつくった後の管理も重要です。相場上昇時に買い、下落時に売るという感情的な行動は、結果として「高値買い・安値売り」になりがちです。一方、当初の資産配分を保つためのリバランスでは、値上がりして比率が高まった資産を売り、値下がりした資産を買い増します。いわば「高値売り・安値買い」を機械的に行い、感情ではなく計画を優先する仕組みです。

もっとも、計画は一度決めたら変えてはいけないものではありません。運用が順調なら目標を引き上げることも、同じ目標をより低いリスクで目指すこともできます。反対に、家族、仕事、物価や市場の前提が変われば、計画自体を修正する必要があります。大切なのは、短期の相場変動だけで計画を変えず、人生や前提の変化に応じて定期的に検証することです。

人生の選択肢を増やすための資産運用

2,000万円という数字も、AIが示す答えも、あくまで参考材料です。問うべきは「いくら持っているか」だけでなく、「そのお金で、どのような選択を可能にしたいか」です。投資は資産額を競うものではなく、よりよく生きるための手段です。運用を任せられる時代だからこそ、ゴールを決め、必要なら見直す意思は自分の手に残しておきたいものです。