円危機が起こるような状況ではない=経常黒字大国の日本
通貨安が止まらなくなり、深刻化した通貨危機が起こる基本は、経常収支が赤字であり、それを埋めるために外国資本の流入に強く依存しているケースだ。外国資本が流出に転じると通貨安は止まらなくなり、その典型例は1990年代後半のアジア通貨危機だろう。
日本はどうかと言うと、日本は経常赤字どころか、記録的な経常黒字拡大が続いている(図表1参照)。その意味では、円安ではなく円高になってもおかしくない。それにも関わらず、円安が長期化した一因は、経常黒字の主役となっている第一次所得黒字の大半が外貨で運用されており、円買い発生が限られるためとみられている。
ただ、それは経常黒字の割に円高にならない理由ということで、円安が長期化する理由ではない。むしろ円安を本当に止めたいなら、第一次所得黒字について、外貨での運用から日本国内への還流を促進させる政策を検討する必要があるだろう。似たような例として、2000年代の米国では本国投資法(HIA)が実施された例があった。
一様ではなかった2022年以降の円安の理由
それでは、経常黒字大国の日本でなぜ円安が長期化したのか。円安が拡大し、150円を超える大幅な円安が繰り返されるようになったのは2022年以降だが、その理由は決して一様ではなかった。まず、2023年頃までの円安は、明らかに金利差円劣位拡大の影響を強く受けたものだった(図表2参照)。それは、世界的なインフレの中で、日銀がいわゆる異次元の緩和を継続したことによる結果だった。
その金利差円劣位は、異次元の緩和終了、日銀が利上げに転じたことなどにより2024年以降は縮小に転じた。ただ、それでも円高は限られると、2025年の半ば頃からは金利差円劣位縮小を尻目に円安が再燃。特に2025年10月の高市政権誕生から改めて150円を超えて円安が広がるところとなった。金利差円劣位縮小を尻目に広がった円安は、日本の長期金利上昇と基本的に連動した(図表3参照)。
2025年後半からは「長期金利上昇=円安」=焦点は財政規律への懸念
日本の長期金利上昇は、財政規律への懸念を受けた動きとみられた。2025年10月に誕生した高市政権は、市場の財政規律への懸念も意識した「責任ある積極財政」と主張したが、これまでのところ懸念の払しょくには至らず、むしろ高市総理が公約に掲げる消費税減税などは、財政規律への懸念をより強め、さらなる長期金利上昇をもたらしているようだ。
以上のように見ると、日本において経常黒字大国では本来考えにくい止まらぬ通貨安が続いているのは、目先的には長期金利上昇が止まらないためで、それは財政規律への懸念が続いているためということになるだろう。その意味では、円安を止める対策は、長期金利上昇を止めること、つまり財政規律への懸念を払しょくすることであり、たとえば消費税減税の撤回などだろう。
円安阻止に有効なのは消費税減税公約の撤回か?
ただ、高市政権は依然として高い支持率が続いている。こうした中で公約とした消費税減税を撤回する可能性は低いだろう。そうであれば、「長期金利上昇=円安」の流れも変わらないと見た投機筋が円売りを拡大しているというのが現状ではないか(図表4参照)。
こうした中で、投機筋による行き過ぎた円売りに対して為替介入で対抗するのはおかしくない。また日銀の利上げにもかかわらず円安が止まらないのも、そもそも金利差を受けた円安ではなくなっていることからすると不自然ではないだろう。
目先的に円安を止める有効策は長期金利上昇を止めること、それをもたらしている高市政権の財政政策の転換ということになるだろう。ただ、その高市政権には高い支持率がある。こうした矛盾をつくのが投機であり、経常黒字大国ながら通貨安が止まらない異例の状況が続いている。
