GW明けの日経平均は過去最大の一日の上昇幅を記録するなど、買い先行の展開となりました。先週(5月4日週)は一時63,000円を超え、ザラ場ベースで史上最高値を更新しています。前回のコラムでは「上値を追えるほどの勢いには欠けるのでは」としましたが、中東情勢の戦闘終結観測による先行き不透明感の後退、介入による円安基調への歯止めなどが雰囲気を一変させたということでしょう。ただし、相場のけん引役はやはりAIや半導体などのテクノロジー関連です。この領域への過熱感も無視できない状況になりつつあることは留意しておくべきと考えます。

今週(5月12日週)は2026年3月期の決算発表が集中します。実績に関するサプライズは多くないと予想する一方、今期(2027年3月期)の決算見通しに関しては、ホルムズ海峡問題から株価には織り込みにくく、この状況は第1四半期発表となる夏頃まで続くのではないかと想像します。

株式市場の焦点は引き続き日々のニュースフローとなり、地政学リスクに対して一喜一憂する展開が続くと受け止めています。ここでジョン・テンプルトンの名言である「相場は悲観の中に生まれ、懐疑の中で育ち、楽観の中で成熟し、幸福感の中で消えていく」をご紹介しておきましょう。これは筆者の座右の銘でもあるのですが、悲観や懐疑の中でこそ投資チャンスがあるということです。現在が悲観や懐疑に満ちているとすれば、それを逆手に考えることを忘れずにおきたいところです。

 LTV(顧客生涯価値)を最大化する切り札「BaaS」のおさらい

さて、今回は「BaaS」をテーマとして取り上げたいと思います。BaaSとは、「Banking as a Service(サービスとしての銀行)」の略で、一般には非金融会社でも銀行サービスを提供できるようになるシステムを指します。

SaaS(サービスとしてのソフトウェア)などと同様、BaaSも基本的にはインターネットを活用した比較的新しいサービスの一つで、かつては株式市場で注目度が高まった局面もありました。その時は大きなテーマとして認知されるには至りませんでした。

しかし、この技術はB2C企業が顧客をしっかりと囲い込み、長期にわたってその顧客から多くのお金を支払ってもらうようにする(=LTV(顧客生涯価値)の最大化)ためには、非常に有効な手段と位置付けられています。その重要性を考えると、こうした技術が再び株式市場で注目される可能性は小さくありません。本コラムではそのための準備として、BaaSのおさらいをします。

「銀行機能のバラ売り」が新たなビジネスと囲い込みを生み出す

そもそも銀行業を営むには、銀行業免許の取得など厳しい規制をクリアすることが必須となります。これが銀行業への大きな参入障壁になっていたのですが、その結果、B2C企業はいくら顧客を囲い込もうとしても、資金決済は、従来の銀行を顧客自身に利用してもらうしかありませんでした。その手続きは顧客に負担を強いることとなり、そこが顧客囲い込みの足枷となっていたのです。

BaaSはまさにこの問題を解決する手段として登場しました。2017年の改正銀行法により、銀行はその「機能」のみを切り離して提供することが可能となりました。つまり、非金融企業は規制をクリアした既存銀行の機能をそのまま「裏方」として使えるようになったのです。B2C企業はこの機能を活用し、融資や決済までを自社サービス内で完結できれば、顧客をより確実に囲い込むことができます。

実際、最近は少なくない非金融企業が自社で銀行サービスを展開していると感じる方も多いのではないでしょうか。実はこれらは自社で銀行システムを用意しているのではなく、裏方に既存銀行のシステムがあり、それを利用しているというのが実態なのです。BaaSの背景には、機能のみをバラ売りするという画期的な発想があります。機能提供者である銀行と機能受給者である非金融企業の双方にメリットのあるビジネス機会を創造したと言えるのかもしれません。規制緩和がビジネスを生む好例の一つと考えてよいでしょう。

機能を提供する銀行、活用する企業…BaaSのメリットを享受する企業群

銀行:裏方として機能やサービスを提供

では、BaaSはどのような企業にメリットをもたらすのでしょうか。まず挙げられるのは、(これまで自行で使うしかなかった)機能を(他社に)提供して対価を得ることができるようになった銀行でしょう。

現在、裏方として機能を提供している銀行は、住信SBIネット銀行(NTT(9432)と三井住友トラストグループ(8309)の折半出資会社)、GMOあおぞらネット銀行(あおぞら銀行(8304)とGMOインターネットグループ(9449)の折半出資企業)、みんなの銀行(ふくおかファイナンシャルグループ(8354)子会社)、SBI新生銀行(8303)、楽天銀行(5838)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)の6行が有名です。これらの企業群は、単に機能サービスの提供のみならず、インターネットを通じたデータやノウハウの蓄積などのメリットも期待できることでしょう。

それ以外でも、三井住友フィナンシャルグループ(8316)やみずほフィナンシャルグループ(8411)などの銀行もBaaSを活用したサービスの提供を行っています。

非金融企業:自社サービス内で決済を完結し、顧客の囲い込みを図る

また、当然のことながら、BaaS活用によって顧客囲い込みを図ることのできる非金融企業群もメリットを受けます。

上場企業では、JAL日本航空(9201)、第一ライフグループ(8750)、ヤマダホールディングス(9831)、高島屋(8233)、東日本旅客鉄道(JR東日本)(9020)、バンダイナムコホールディングス(7832)、岡三証券グループ(8609)などが既に銀行サービスを自社サービスに組み込んでいることが知られています。

顧客囲い込みやLTV最大化に向けて、こうした企業群は着実に歩を進めているのでしょう。もちろん、ここで挙げられていないBaaS利用企業も多数存在していることを忘れてはいけません。読者の皆さんも今後、「おや?この企業が銀行サービス?」というケースに直面することは多々あるでしょう。そのような企業はBaaSの利用を始めた可能性があります。顧客囲い込み戦略をそこからうかがうことができると考えます。

さらに、BaaSを実現させるインフラ企業も重要です。前述の住信SBIネット銀行は、かつて上場していましたが、NTTドコモが株式を取得するに伴い、現在は非公開企業となりました。NTT(9432)による株式取得は、それだけインフラの重要性を見越したものであり、全プレイヤーからの課金収入機会を狙ったものと推察することができます。この他、いわゆるフィンテック企業もこうしたレイヤーでの対象企業となってくることでしょう。このような企業群にも、目配りしておきたいところです。