2022年の貿易・サービス赤字急増で注目された構造的円安論
日本の貿易・サービス収支は、2025年第4四半期に小幅ながら黒字となった。貿易・サービス収支は2022年第3四半期に7兆円と過去最大の赤字を記録した(図表1参照)。そうした中で2022年以降150円を超える米ドル高・円安が繰り返されることになったことから、円安の主因は日本経済の衰退化、国際競争力低下であるとの構造的円安論が注目されるようになった。
ただ、これまでのところ、貿易・サービス赤字拡大は2022年が突出したもので、その後はむしろ縮小傾向となった。その中で、2024年と2025年の第4四半期は小幅ながら黒字を回復するところとなった。一方で、為替相場は2023年以降も毎年150円を超える米ドル高・円安が繰り返された。その意味では、日本経済の衰退化や国際競争力低下に伴う貿易・サービス収支の悪化という構造論で円安を説明するのは、困難になっているのではないか。
2023年以降貿易・サービス赤字は縮小=構造論での円安説明は無理
貿易収支とサービス収支に分けてこの間の推移を見ると、2022年に貿易・サービス赤字が急増したのは貿易赤字急増によるものであることが分かるだろう(図表2参照)。その主因は輸入の急増。この年の2月にロシアがウクライナに侵攻し、それをきっかけに原油などのエネルギー価格が急騰した。これを受けて原油輸入依存度の高い日本では輸入額が拡大し、それが貿易・サービス赤字が過去最大に拡大した主因だった。
2023年以降、原油価格が下落したことにより輸入が減少すると、貿易赤字も大きく縮小。それが貿易・サービス赤字縮小の主因ということになるだろう。貿易・サービス赤字拡大は、IT分野での日本の国際競争力の比較劣位の結果として、いわゆる「デジタル赤字」急増の影響も大きいとの指摘がある。ただ、このデジタル赤字を含むサービス収支の赤字は、四半期ベースでは2020年以降1兆円前後での推移が続き、急に拡大したというわけでもなさそうだ。
以上のように見ると、2022年以降円安が拡大し、円安傾向が長期化している理由として、日本経済の衰退化や国際競争力低下に伴う貿易・サービス赤字拡大で説明するのは無理ではないだろうか。
2023年までの円安は金利差拡大が主因=2024年「歴史的円安」は投機主導
2022年以降の米ドル高・円安の急拡大は、当初は日米金利差(米ドル優位・円劣位)拡大に沿ったものだった(図表3参照)。その金利差拡大は、世界的なインフレにより日本以外の国が大幅利上げに動いた一方で、日本は当初デフレ脱却を目指す金融緩和を継続したことによる。
2024年以降、日米金利差が縮小に向かう中でも米ドル高・円安が拡大、ついに160円を超える「歴史的円安」になると、改めて「円安の背景は金利差だけではない」として日本経済の衰退化や国際競争力低下という日本経済の構造変化の影響も注目された。ただ2024に入り、貿易・サービス赤字が再拡大したというわけでもなく、むしろ2023年以降の赤字縮小傾向が続いた。
日本の通貨当局による米ドル売り・円買い介入をきっかけに、2024年7月の161円から短期間に140円程度まで急激に円高へ戻す動きが起こった。これは投機的円売り主導の行き過ぎた円安の反転だったのだろう。
円安長期化の背景は止まらない日本からの資本流出
ただ2025年の半ば以降、改めて米ドル高・円安が再燃すると、最近にかけて再び160円まで円安に戻すところとなった。この動きは、特に2025年後半において日本の長期金利上昇と相関していた。このため、日本の財政リスクを懸念した資本流出の結果が円安の背景と考えられた(図表4参照)。
そもそも為替市場は、国際的な資本移動の拡大により飛躍的に拡大したことから、為替相場も資本移動の結果で決まるようになった。その意味では円安の長期化の背景も、日本からの資本流出が止まらない影響が大きいだろう。これを貿易・サービス収支という経常収支で説明するには自ずと無理があるのではないか。
