イラン情勢の緊迫化は、原油高とインフレ再燃懸念を通じて金融市場全体に不安を広げている。実際、戦闘開始後は原油価格見通しが大幅に切り上がり、日本株を含む主要市場は大きく揺れた。ビットコインも無傷ではなく、初動では他のリスク資産と同様に売られた。しかしその後は値を戻し、危機局面を通じて相対的な底堅さも見せた。つまりビットコインは、なおリスクマネーの色彩を残しつつも、単純なハイベータ資産としては捉えきれなくなっているのである。

その背景には、中東、とりわけイランにおける利用実態がある。現地の個人や企業にとって、暗号資産、とりわけビットコインは値上がり期待の対象であるだけでなく、自国の金融インフラや通貨への信認が揺らいだ際の代替手段にもなりうる。Chainalysisによれば、2026年2月28日の空爆後、イランの主要取引所から外部ウォレットや海外取引所への資産流出が急増したとされる。これは、国家の金融機能が不安定化しても自ら保有・移転できる資産への需要が、危機時に現実のものとなることを示している。

他方で、暗号資産の国家非依存性は、制裁回避という側面も持つ。米財務省は2025年9月、イランのシャドーバンキング網が暗号資産を使って制裁を回避し、2023-2025年には石油販売のために1億ドル超の暗号資産購入が手配されていたと公表している。今回も、暗号資産プラットフォームがイランの国家関係者による制裁回避に使われたかを精査していると報じられている。すなわち暗号資産は、個人にとっては退避手段である一方、国家にとっては既存の国際金融網を迂回する手段にもなりうるのである。

もう一つ市場の関心を集めたのが、暗号資産と接点の深い予測市場である。戦争や選挙、政策決定など出来事の発生確率そのものを売買する市場で、2024年米大統領選以降、その速報性と情報集約機能への期待から急拡大した。PolymarketやKalshiといった主要な予測市場の一部は、ステーブルコインなど暗号資産インフラとの接点も深く、暗号資産投資家にとっても無縁の市場ではない。だがイラン関連では、空爆時期や指導者交代を巡る取引に巨額資金が流入し、未公表情報の利用を疑わせる売買も問題化した。

このように、ビットコインや暗号資産は、単なる投機対象ではなく、地政学リスクや社会の不安定化を映し出す市場としての性格を強めている。世界情勢が不安定になるほど、暗号資産市場がマクロ経済や戦争と切っても切れない存在になっていることがうかがえる。