「介入は特定の水準ではなく値動きで判断する」という説明の意味
日本の通貨当局は、2022年と2024年に米ドル売り・円買い介入を行った。2022年の最初の介入は9月22日で水準は145円程度、そして2024年の最初の介入は4月29日で水準は160円程度と見られた。
このように介入を開始した水準は2022年と2024年ではかなり違った。ただこれを120日MA(移動平均線)との関係でみると、2022、2024年とも最初の介入を行った水準は120日MAを7%前後上回っていた(図表1参照)。
同じく、最初の介入水準について5年MAとの関係を見てみると、2022、2024年ともそれを3割程度上回ったところだった(図表2参照)。為替介入の実質的な責任者である三村財務官は常々、「介入は特定の水準ではなく、値動きで判断している」と説明する。これまで見てきた2022年と2024年の介入開始水準が違う一方で、移動平均線との関係にはある程度の共通点があったということは、三村財務官の説明と符合するのではないか。
短期と中長期という2つの「急過ぎる円安」の目安
必ずしも、当局が120日MAと5年MAとの関係を見ているわけではないものの、前者を5%以上と大きく上回った動きを「短期的に急過ぎる円安」、そして後者を3割前後上回った水準を「中長期的に急過ぎる円安」とするような判断基準があったのではないか。
では現在はどうか。米ドル/円の120日MAは、1月14日時点で152円程度。このため目先的には160円を超えてくると120日MAを5%以上上回る見通しだ。2024年までの判断基準でも、「短期的に急過ぎる円安」として介入を検討する可能性はあるのかもしれない。
ただし、米ドル/円の5年MAは足下で138円程度なので、160円でもそれを15%程度上回るにとどまる。当面において5年MAを米ドル/円が3割上回るのは179円という計算になる。つまり一気に180円を目指す動きにならない限り、これまでの判断基準から「中長期的に急過ぎる円安」として介入開始を検討する状況ではないと考えられる。
政治主導の介入判断変更なら「失敗」リスクにも要注意?
これまで見てきたことからすると、もしも160円近辺で米ドル売り・円買い介入に動くなら、それは介入の判断基準が2024年までのそれから変更され、これまでより介入出動が早まっている可能性を示しているかもしれない。もしそうなら、安倍政治の継承者を自認する高市総理の「政治主導」の影響ではないか。2024年までの財務官という官僚主導の介入判断が政治主導でより早期に円安阻止に動く方針に変わったということだ。ではそれは成功するのだろうか。
2024年までの介入開始が、米ドル/円が5年MAを3割近く上回るところとなったのは、円安限界の影響があったのではないか。米ドル/円は5年MAを3割上回ると循環的な上昇(米ドル高・円安)が一巡するパターンをこれまで繰り返してきた。その意味では米ドル/円が5年MAを3割上回る動きは、循環的な円安限界圏に達するという意味があった。当局もそうした限界に達した円安なら止められることを介入開始でも意識していた可能性はあったのではないか。
そうであれば、これまでより早く、未だ米ドル/円が5年MAを2割も上回っていないところで介入を始めても円安は止まらない懸念があるのではないか。これまでの官僚主導の介入判断基準を政治主導で変更した場合、円安阻止介入が失敗するリスクにも要注意だろう。
2024年までの「投機円売り主導の円安」とは違う?
また、片山財務相などは円安を憂慮する理由として、「一方的すぎる」、「投機的すぎる」などをあげている。これは2024年までの介入を行う理由でも使われてきたものだ。そしてそれは、2024年までは確かに一部の投機筋のポジション・データから裏付けられるものだったが、今回は違う(図表3参照)。
投機円売り主導の円安の場合、介入で短期的に大きく円高へ戻した場合、損失回避で円買いが拡大することで円安の反転が可能になった。ただ投機筋の円売りポジションが過大でないなら、介入による円高への誘導でも損失回避の円買い拡大は限られる可能性があるだろう。そして「最後の砦」の介入でも円安が止まらないとなった場合は、いよいよ投機筋が円売り拡大を本格化することで、円が暴落する危険性もあるかもしれない。
