銀座で40年以上、昭和の香りを守ってきた老舗の居酒屋が、暖簾を下ろすことになりました。銀行員時代に先輩方に連れて行っていただいた日からずっと、ここは「戻れる場所」でした。銀行を離れても、ときどき集まって近況を語り合い、笑い合う場でした。

店内は古く、壁には昭和のグラビアポスターと手書きのメニュー。「ザ・昭和の居酒屋」なのに、料理はどれも本格派。おっちゃんとおばちゃんが変わらず迎えてくれる、「ここに来れば間違いない」名店でした。

しかし年月には逆らえず、閉店を決意されたお二人。先日開かれた「御礼の会」で、おっちゃん・おばちゃんが深々と頭を下げて「ありがとう!」とおっしゃった瞬間、胸がじんと熱くなりました。銀座の名店がまた一つ幕を閉じます。次はどこで皆とバカ話をすればよいのだろう、と。

赤坂にも、長く通い続けている大切なお店があります。昭和レトロな空気に肩の力が抜け、「お父さん」「お母さん」と呼ぶ大将とママの様子を見に、コロナ禍でも通いました。実は夫婦ではなく姉弟だと知ったときの驚きと愛おしさ(笑)。伊佐美のボトルは何本キープしたでしょう。耳が少し遠くなった今も、変わらない笑顔で迎えてくれる私の「帰る店」です。

そんな中、昨日、人間国宝の方のお話を聴く機会がありました。「伝統とは守るのではなく、価値観を掛け合わせて創造し、つないでいくもの」と話されていました。工芸だけでなく、私たちの日常や企業経営にも同じことが言えるのだと思います。店は姿を変え、暖簾は下りても、そこに集った人の関係性や文化は残り、別の形でまた創られていく。価値は「保存」されるのではなく、人と人との関わりの中で「更新されながら受け継がれる」のでしょう。

時代は移ろい、人も店もいつか役目を終える。けれど、場所がなくなっても、そこで過ごした時間や人のぬくもりは消えない。むしろ年を重ねるほど、それらが私たちを支える「心の拠りどころ」になっていく。そしてそれを次の場所へ、次の関係へとつないでいくことこそ、伝統の「創造」なのだと感じています。

銀座のおっちゃん、おばちゃん。長い年月、本当にありがとうございました。新しい日々が穏やかでありますように。どうかいつまでも、お元気で。