4月前半までの円高と連動したヘッジFの円買い
2025年に入り、1月の158円から3月の146円までの米ドル安・円高は、日米金利差(米ドル優位・円劣位)縮小と強く連動したものだった(図表1参照)。そして、この金利差縮小は、米財務省が最近公表した為替報告書や同時に発表されたベッセント米財務長官のコメントなどからすると、トランプ政権が日本に対して非公式に不当な低金利の見直しを通じ、行き過ぎた円安是正を求めた影響が大きかったのではないか。

このような米ドル安・円高と日米金利差以外に強く連動したのが、ヘッジFの米ドル売り・円買いの動きだった。ヘッジFの取引を反映しているCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは、4月にかけての買い越し(米ドル売り越し)拡大が、きれいに米ドル安・円高の動きと重なっていた(図表2参照)。

2024年の円売り主導役から円買い主導役に大転換=ヘッジF
これは、日米金利差が縮小する中で米ドル安・円高となったことから、それに素直に米ドル売り・円買い拡大で反応した結果と見られなくもない。ただし、2024年7月にかけて161円まで米ドル高・円安となった局面では記録的な米ドル買い・円売り拡大でそれを主導したヘッジFが、トランプ政権が始まる頃からとたんに円売りに慎重になり、空前の円買い拡大に大転換したことを考えると、ただ相場の流れに乗ったというだけではなく、かなり意識的な行動だったようにも感じられる(図表3参照)。

トランプ政権で通貨政策を担当するベッセント米財務長官はヘッジF業界出身者だ。米ドル/円の値動きとのこれまでの関係を見ると、トランプ政権の通貨政策とヘッジFは想像以上に強い連携があった可能性も考えられなくないだろう。
CFTC統計の投機筋の円買い越しは、4月後半で拡大が一巡した。当時同買い越しはすでに17万枚以上に拡大(図表4参照)。2024年までの同買い越しの最高が、2016年に記録した7万枚だったことを考えると、空前の大幅な買い越しとなったことから、さすがに円買いを一服したと考えられた。ただ、トランプ政権の通貨政策との連携との観点で見ると、「違う事情」もあったのかもしれない。

ヘッジFの円買い一服はベッセントの米ドル危機懸念への配慮も?
4月のトランプ米大統領の相互関税発表以降、金融市場は大荒れとなり、「米国売り」懸念が広がった。こうした中で、ベッセント米財務長官は「米ドル危機」に陥ることも警戒したと見られている。その意味では、ヘッジFが円買いを一服したのは、ベッセント米財務長官の急激な米ドル安・円高への懸念に配慮した影響もあったとも考えられる。
以上のように見ると、トランプ政権の通貨政策とヘッジFは、これまでのところ想像以上の「蜜月」関係にあったのかもしれない。それがこの先も続くなら、ヘッジFの動きは、トランプ政権の通貨政策、つまりベッセント米財務長官からのメッセージの目安にもなるだろう。