急ピッチで値を戻してきた日経平均ですが、前回のコラムで指摘した通り、ここにきて足踏み状態となってきました。スピード調整といった側面に加え、予測不能な関税問題がやはり上値の重石となってきたものと推察します。対米交渉が続く限り、関税問題はまだしばらくは相場の足枷になるでしょう。

しかし、それ以上に懸念するのは国内景気です。5月16日に発表された1-3月期のGDPは0.7%減と4期ぶりのマイナスとなりました。個人消費の伸び悩みは鮮明で、これは4月以降、一段と冷え込んでいる可能性もあります。思った以上に国内景気の足腰は弱ってきているのかもしれません。当然これは、間近に迫っている都議選や参院選にも影響してきます。選挙によって行政に不安定さが高まれば、景気にさらに悪影響も出かねません。株価が上値を追う展開に転じるには、まだ材料が足りないのでは、と考えています。

外食産業もインバウンド拡大の恩恵を受けている

さて、今回は「外食産業」をテーマに取り上げてみましょう。前回のコラムではインバウンドをテーマに取り上げましたが、外食産業もまた近年のインバウンド拡大の恩恵を大きく受けている産業の一つに数えられます。そのインパクトはすさまじいもので、観光庁の調査によると2024年のインバウンドによる外食市場への寄与は1.74兆円にも上るとしています。これは旅行中における総支出の約2割を占めるというボリュームです。

国内外食産業市場全体を日本フードサービス協会の統計から推定すると、2024年は26兆円程度と試算できます。このうち、学校や病院などの集団給食分を除くと23兆円弱といったところでしょうか。つまり、インバウンド需要は(集団給食を除く)外食市場全体の約7%をも占める規模にあると言えるのです。

歴史的意味合いはさらに重要です。そもそも集団給食を除く国内外食市場は、不況やデフレによって1990年代からインバウンド急増前夜の2012年までにおよそ25兆円から20兆円まで縮小していました。同じ基準で2024年が23兆円弱ですから、その後に約3兆円ほど市場が膨らんだ計算になりますが、そのうちの実に過半をインバウンド需要が牽引したと分析できるのです。外食産業の成長を語るうえで、インバウンド需要の取込みが非常に重要であったことがわかっていただけるでしょう。

ファストフードが全体の伸びを引っ張る

では、訪日旅行者はどのような分野の外食に注目しているのでしょうか。やはり日本フードサービス協会の統計を基に推定してみると、2013年から2024年の間に最も伸長したのがファストフードでした。実に46%の伸びとなり、全体の伸びをけん引する構図となっています。ディナーレストランやファミリーレストランも伸びてはいるのですが、全体の伸びを下回っており、まさにファストフードの独り勝ちという様相を呈しています。

この快進撃の原因をそのままインバウンドとするのには無理がありますが、民間企業の調査でもインバウンド客はファストフードへの消費が大きいという結果と併せて考えると、やはりインバウンド=ファストフードという構図はある程度は成立するのではないかと想像します。実際、動画配信サイトでも訪日客によるファストフード店でのリアクション動画を数多く見かけます。訪日外国人からすれば、寿司、中華、和食、イタリアン、洋食、スイーツなど実に種類が豊富なうえ、注文も簡単でリーズナブルな価格、しかもおいしいとなれば特に魅力に感じるのも腑に落ちます。日本人でも足繁く通う方も少なくありません。

コストアップによる値上げでも顧客を逃さないポイント

ただし、そのファストフードに限らず、外食産業には深刻な問題が浮上していることも忘れてはいけません。そうです。コストアップです。お米を始めとする食材コストや人手不足を背景とした人件費の上昇はよく知られている通りです。多くの外食企業は単価を引上げることでコストアップを吸収すべく対応していますが、あまりに値上げが急で割高感が生じてしまえば(インバウンド客はそう感じなくとも)国内の安定顧客が離れてしまうリスクがあります。実際、そうした事態に直面してしまった企業も存在しています。

ポイントは、インバウンド客の取込みだけでなく、少々の値上げでも離れていかないロイヤルカスタマーをどれだけ確保・育成できているか、ということでしょう。個人の感覚で言うと、「一定の間隔があくと、何故か無性に食べたくなってしまう」という外食を提供できているかどうか、それだけの認知度や支持者を抱えるブランドを有しているかが問われることになるはずです。

インバウンドによる活性化は株価に織り込み済み、複数の人気ブランドを有する銘柄に注目

では、株式投資の観点ではどのような企業が注目できるでしょうか。気をつけていただきたいのは、インバウンドによる外食産業の活性化は既によく知られたことであり、この見方は少なからず株価に織り込み済みとなっているということです。実際の投資に際しては、これらのリストに加え、バリュエーションや月次売上動向などを予めきちんと確認しておくことをお薦めします。

また、実はファストフードにおいて年1500億円以上を国内で売り上げる「お化けブランド」は10もありません。そのため、少なくない外食企業は複数のブランドを有することで売上高の成長を確保し、収益基盤を安定化させています。

そのような「お化けブランド」を含む複数のブランドを有しているのがゼンショーホールディングス(7550)、すかいらーくホールディングス(3197)、吉野家ホールディングス(9861)、FOOD & LIFE COMPANIES(3563)などです。また、お化けブランドへの集中度が高い企業群としてはくら寿司(2695)、サイゼリヤ(7581)、日本マクドナルドホールディングス(2702)などが、それぞれ挙げられるでしょう。

また、「お化けブランド」にはまだ及ばないまでも複数のブランドを擁して十分な存在感を示している企業としては、トリドールホールディングス(3397)、コロワイド(7616)、クリエイト・レストランツ・ホールディングス(3387)、ロイヤルホールディングス(8179)、ドトール・日レスホールディングス(3087)などが挙げられます。

ぜひ実際にお店に足を運ばれて店内の雰囲気をご自身で確かめてみてください。データからでは見えてこない気づきが見つかるかもしれません。