円高150円割れで主役を演じた「異例の円金利上昇」

YCC(イールドカーブ・コントロール)=長期金利上昇抑制策

2022年以降、米ドル高・円安は大きく広がった。これは日米金利差(米ドル優位・円劣位)が急拡大に向かったためだった(図表1参照)。この金利差急拡大の一因は、もちろんFRB(米連邦準備制度理事会)が歴史的インフレへの対策で大幅な利上げに動いたことだったが、もう1つ重要な役割を果たしたのは、日銀が金利上昇を回避するべく異次元緩和を継続するとともに長期金利上昇抑制策であるYCC(イールドカーブ・コントロール)を行ったことだっただろう。

【図表1】米ドル/円と日米10年債利回り差(2022年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

日本の長期金利は、基本的には「世界一の経済大国」である米国の長期金利の影響を強く受けることから両者は連動する。ところが2022年から日銀がYCCで長期金利に上限を設定したことから、日米の長期金利差は急拡大に向かい、結果としてそれが大幅な米ドル高・円安をもたらす主因になったのではないか(図表2参照)。

【図表2】日米の10年債利回りの推移(2021年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

金利抑制にくぎを刺すベッセント財務長菅の発言

トランプ政権の通貨政策の責任者であるベッセント財務長官は、少し前にあるインタビューに答えて以下のように発言していた。

「我々が望まないのは他の国が自国の通貨を弱くすることや、貿易を操作すること」、「自由な形の貿易システムは存在しない。為替レートがその一因となっている可能性があるほか、金利抑制が要因となっている国もある」

この中の「金利を抑制することで自国通貨を弱くした国」は、異次元緩和でYCCを行った日本に重なる。もしもそうしたことが米政府から批判された場合、日本政府はもちろん、「当時はデフレ脱却を目指して行った政策であり、通貨安誘導を目的としたわけではない」と説明するだろう。これに対して米政府が、今はすでにデフレ脱却が実現したようだが、なぜ大幅な円安を放置しているのかと反論しないだろうか。そのような通貨・金融政策を巡る日米間の対立の表面化を回避するためには、円高が実現することが必要だろう。

大きくかい離する日米長期金利

米ドル/円は1月の158円から、最近にかけて一時146円台まで米ドル安・円高に戻すところとなった。それは日米金利差の急縮小に基本的に沿ったものだった(図表3参照)。ただし、この金利差縮小は、これまでとは少し違った組み合わせのものだった。

【図表3】米ドル/円と日米10年債利回り差(2025年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

日米の長期金利は、2月に入ってから異例な形でかい離が拡大した。米10年債利回りの低下傾向を尻目に日本の10年債利回りが大きく上昇したわけだ(図表4参照)。このように両者がかい離することなく、1月までの相関関係が続いていたなら、日本の10年債利回りも1%方向へ低下していた可能性が高い。このため、日米10年債利回り差は足下で3%以上であれば、米ドル/円が150円を割れることはなかったと見られる。

【図表4】日米の10年債利回りの推移(2024年9月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

以上のように見ると、150円以下への米ドル安・円高をもたらしたのは、日本の長期金利上昇の影響が極めて大きかっただろう。そしてそれは、2月7日の日米首脳会談の前から急に始まったことなどを考えると、日本政府が低金利見直しを急いでいることの影響も気になるところではないか。