モトリーフール米国本社– 2024年12月10日 投稿記事より
量子コンピューティング業界は、興味深い転換点に立っています。幅広く実用化されるのはまだ何年も先のことですが、投資家は2024年に量子コンピューティング銘柄の株価は上昇しています。イオンQ[IONQ]の株価は年初来で206%上昇、リジッティ・コンピューティング[RGTI]は同344.7%上昇しており、業界の未来に対する楽観的な見方が広がっています。
こうした量子コンピューティング企業の中で、Dウェーブ・クオンタム[QBTS]は機関投資家と市場全体から特に注目を集めています。株価は年初来で474.9%上昇と、目を見張る勢いです。しかし、時価総額は12億ドル、現時点では売上高もわずかであるため、投資家は同社のパイオニアとしての地位と割高なバリュエーションについて、慎重に検討する必要があります。同社に投資する前に知っておくべきことは、以下の通りです。
初期の商業的リーダー
Dウェーブは、量子コンピューターを実稼働環境に導入した最初の企業です。同社の「量子アニーリング」システムは最適化問題に特化しており、実際の応用範囲はネットワーク・パフォーマンスや創薬から、物流やリソース配分まで多岐にわたります。
最近も新たな顧客を獲得し、その実用的価値が証明されました。日本最大の携帯電話事業者であるNTTドコモは、ネットワーク信号の混雑を減少させ、設備コストの削減を図るためにDウェーブの技術を導入する予定です。また日本たばこ産業(2914)も、量子によって強化された人工知能(AI)を活用して創薬プロセスを加速させるために、Dウェーブと提携することを発表しました。
機関投資家の関心の高まり
大手投資会社もDウェーブの躍進に注目しています。バンガード、ブラックロック[BLK]、ゴールドマン・サックス[GS]はいずれも、2024年下半期にDウェーブのポジションを大幅に増やしました。Dウェーブは政府機関の顧客からも信頼を得ており、米国防総省の「Tradewinds」調達プラットフォームで「awardable(発注可能)」のステータスを獲得しています。
Dウェーブは研究開発(R&D)能力を拡張し続けています。最近、4,400量子ビットのAdvantage2プロセッサのキャリブレーションに成功したことは重要なマイルストーンであり、以前のプロトタイプと比べて処理能力は4倍近くに拡大しています。同社はまた、材料科学の研究と実用的な最適化アプリケーションの推進に取り組むシカゴ量子取引所(CQE)に参画しています。
市場でのポジションと競争
フォーチュン・ビジネス・インサイトによれば、世界の量子コンピューティング市場の規模は2023年に8億8,540万ドルに達しました。業界の予測では、市場規模は2032年に126億ドルに成長する見通しであり、年平均成長率は34.8%となります。
これほど大きな市場機会にもかかわらず、Dウェーブは資金力のあるライバル企業や大手ハイテク企業との厳しい競争に直面しています。しかし、最適化問題に対する量子アニーリング技術に注力することで、同社は独自の市場ポジションを確立しています。同社は最近、量子クラウドサービスの「Leap」で業界初のサービスレベルの合意を発表し、商業化への自信を見せています。
財務の実態
株価が劇的に上昇している反面、Dウェーブの財務状況は厳しい現実を示しています。2024年第3四半期の売上高は、前年同期比27%減の190万ドルでした。サービス収入としての量子コンピューティングの売上高は41%増の160万ドルでしたが、プロフェッショナル・サービスの売上高は80%減の30万ドルでした。
純損失は2,270万ドルに拡大しましたが、経営陣は楽観的な見通しを維持しており、第4四半期に売上高と受注の改善を見込んでいます。
もっと先に目を向けると、ウォール街のアナリストはDウェーブの2025年売上高が1,480万ドルに達し、前年比で70%近く増加すると予想していますが、これは量子コンピューティングの商業的導入が依然として初期段階であることをあらわしています。
Dウェーブ株は魅力的か?
Dウェーブの株価売上高倍率(PSR)は93倍超という極めて高いバリュエーションであり、足元の株価を正当化するためには劇的な成長が求められます。世界の量子コンピューティング市場は有望で、2032年にかけて大幅な成長が見込まれますが、Dウェーブの目先の売上高にそれほどの成長は見込まれません。
ほとんどの専門家は、商業的に有用な量子コンピューターには数百万量子ビットが必要であり、それが実現するのは2035~2040年になるとみています。Dウェーブの初期の商業展開と機関投資家からの支持の拡大はリーダーとしての可能性を示唆しています。しかし、四半期売上高が190万ドルで赤字が拡大しているという現状を鑑みると、投資先としては、リスク許容度が高く、極めて長期的視点を持つ投資家にしか向いていないと思われます。
免責事項と開示事項 記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。元記事の筆者George Budwellはブラックロック、イオンQの株式を保有しています。モトリーフール米国本社は、記載されているどの企業の株式も保有していません。モトリーフールは情報開示方針を定めています。