米ドル買い・加ドル売りの記録的な拡大
CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の米ドル・ポジションについて、主要な5通貨(日本円、ユーロ、英ポンド、スイスフラン、加ドル)の対米ドル・ポジションで試算すると、2024年12月31日時点で30.4万枚の買い越しだった。経験的に、米ドル買い越しが30万枚以上に拡大すると「行き過ぎ」懸念が強いと言えそうだ(図表1参照)。その意味では、米ドルの「買われ過ぎ」懸念が強まってきた可能性がある。

米大統領選挙の影響で記録的な米ドル買い・加ドル売り拡大
米ドル「買われ過ぎ」の主役は対加ドルのようだ。加ドルの対米ドル売り越しは、12月31日時点で17.5万枚と、ほぼ過去最大規模の加ドルの売り越し(図表2参照)である。これを米ドルの側からみると、上述のように30万枚超の買い越しの6割近くが対加ドルでの買い越しということになる。

ではなぜ最近にかけて、記録的な米ドル買い・加ドル売り拡大となったのか。この動きは2024年に入ってから広がり、一旦縮小したものの、11月の米大統領選挙にかけて再燃となった。以上のように見ると、米大統領選挙の影響が記録的な米ドル買い・加ドル売りにつながった可能性がやはり高かったのではないか。
米ドルの「買われ過ぎ」は、トランプ関税の影響がかなり大きい
トランプ氏は米大統領選挙での勝利が確定した後、「メキシコとカナダからの全ての製品に25%の関税を課す」との意向を表明した。トランプ氏の選挙公約の柱とも言えそうな関税政策で最も悪影響を受けそうな国のひとつがカナダだろう。そうした中で、記録的な米ドル買い・加ドル売りが拡大し、それが米ドル「買われ過ぎ」懸念拡大を主導したと考えられる。
なお、円の対米ドルでのポジションは、同じ12月31日時点で0.8万枚の売り越しなので、ほとんどニュートラルである(図表3参照)。これは、米ドルが多くの通貨に対して総じて買われた結果、「買われ過ぎ」になっているわけではなさそうだと感じさせる。要するに米ドルの「買われ過ぎ」は、トランプ関税の影響がかなり大きいと言えそうだ。

「トランプ関税」が米ドル相場にも今後大きく影響する可能性
「トランプ関税」について1月6日、米ワシントン・ポスト紙が、「次期政権は、インフレを再燃させる懸念もあるため、関税引き上げの対象を、国家安全保障などに影響する重要分野に限定する計画を検討している」と報じると、一時米ドルは急落した。この反応は、関税要因が米ドル「買われ過ぎ」懸念を拡大させたと考えると理解しやすいだろう。関税リスク後退が、米ドル「買われ過ぎ」を逆流させたということだ。
もっともその後、トランプ氏がその報道を否定すると米ドルは買い戻された。高関税はトランプ氏の選挙公約の柱だけに、それをあっさり引き下げないことが再確認されたのではないか。
その一方で、トランプ政権1期目と異なり、歴史的インフレが続いてきた後だけに、それを再び悪化させかねない「トランプ関税」に慎重な動きが強そうなことも、今回の報道で認識されたと思われる。そして「トランプ関税」が、米ドル「買われ過ぎ」の一因にもなっていると見られることから、それを巡る動きは1月6日のように米ドル相場にも今後大きく影響する可能性がありそうだ。