市場は衆院選をリスクだと捉えていない?

日経平均が堅調に推移している。「石破ショック」の1900円安で3万8000円台を割り込んだところから、着実に戻り歩調を辿って3万9000円台を回復した。昨日も今日(前場終了時点まで)も高値は3万9600円台まで伸ばし、「高市トレード」でつけた「令和のブラックマンデー」以降の高値、3万9829円に迫ろうとしている。これだけ相場が強いということは、今回の衆院選で与党が大敗すると市場参加者は見ていないと捉えてよいのだろうか。

僕は当初、今回の衆院選で自民党大敗の可能性が濃厚で、それが株式相場にとって大きなリスクだと考えていた。なぜなら、「選挙は買い」というアノマリーの裏にあるのは、政権の安定に対する好感や変化への期待などであり、今回、仮に自民党が大負けした場合、そのどちらも起こりえないからだ。仮に自民党単独での過半数割れとなれば、石破政権の存続は危うくなるし、自民・公明の連立与党でも過半数に達しない場合は、政権交代にはならないまでも与党の枠組みが大きく変化することになり、それは決して「期待」につながる変化ではないからだ。

しかし、足元の堅調な相場を見ると、市場は衆院選をリスクだと捉えていない節がある。

いや、そうではなく、堅調地合いの背景には、「選挙は買い」というアノマリーがあるのかもしれない。非常によく知られることだが、衆院解散から投開票日までは株高が続く。1969年の衆院選から2021年までの17回で一度も下がったことがない。一方、衆院選後の株価の推移はまちまちである。その後、半年程度のパフォーマンスを見ると大幅高になったケースもあれば大きく低迷したケースもある。これは直後1週間から1か月のパフォーマンスも同様である。つまり、選挙前の相場の推移と選挙後のそれには相関がなく(選挙前はぜんぶ上昇してきたのだから当然だ)、選挙前の市場の動きから選挙結果に対する市場の織り込みを探ろうとするのは無意味だということである。

衆議院選挙後の騰落率データ(%)
※選挙日の前営業日比、%
注)1969年のデータのみ、データ取得ができなかったので1970年1月5日比で騰落率を試算
出所:マネックス証券作成

また、選挙後の相場のパフォーマンスは与党の議席の増減、過半数や安定多数の確保とも関係がない。あくまでその時々の情勢次第という身も蓋もない結論である。だから、今年の衆院選の結果を気にしても、あまり仕方がないと言えばそれまでか。

とは言え、ある程度のシナリオと相場観はもっておくべきだろう。

想定シナリオと相場観

メインシナリオは自民単独での過半数をぎりぎりで確保するというものだろう。そうなった場合、石破政権は存続し、掲げた公約の実現に向けて政策を推進していく。資産運用立国など岸田政権の方針を継承するので、マーケットにとってはポジティブだろう。党の公約として物価上昇を上回る賃上げや、先端半導体や人工知能(AI)といった技術開発への国内投資の促進を明言した。悪い話ではないので、自民党の勝利が薄氷を踏むものであっても、政権の安定は株高につながるだろう。

それは自民・公明で過半数でも同じだろう。勝敗ラインとして与党で過半数と挙げた以上、それを上回れば勝ちは勝ちだ。たとえ自民単独での過半数割れでも自民党の惨敗は石破さんのせいかといえば、そうではないのだから石破さんの進退問題にはならず、むしろ党内での基盤固めに通じるだろう。

問題は与党で過半数を取れない場合だ。この場合、日経などの報道では、1)無所属議員らを取り込んで過半数を上回る、2)それでも足りなければ、維新や国民民主党といった野党の中でも比較的考え方の近い党との連立政権、といった案が取りざたされている。

野党の連携が進んでいないので、非自民の政権交代が起こる可能性はほとんどないが、いずれにせよ自民党の「議席の落とし方」がポイントになる。これから出てくる世論調査などにも留意していきたい。