昨日LTCMのジョン・メリウェザーとその仲間たちの話を書きましたが、ひとつ想い出話を。
あれは1988年のことだったと思いますが、JMの配下のトレーダー達は自らの理論を信じてそれを実践し、市場の歪みから巨利を挙げており、文字どおりウォール・ストリートを闊歩していました。ある日みんなでアトランティック・シティーという隣の州にあるカジノに行こうということになりました。平日の午後2時半頃に早々に取り引きを手仕舞い、三々五々タクシーに乗り込み、当時まだウォール・ストリートの近くにあったヘリ・ポートに行き、そこからみんなで(総勢10名強だったと思います)アトランティック・シティーにヘリで乗り込みました。
カジノの理論は彼らにとっては正に専門分野であり、理屈でいうとお客さんに勝ち目は無いことは誰よりも熟知しており、あくまでもレクリエーションとして出かけた訳です。特に、長く多くの賭けをすると、着実にハウスが勝って行きます。私たちが選んだのはクラップスというサイコロ・ゲームでした。私たちだけでひとつのテーブルを、それもハウスが「打ち止め」となる額の低いテーブルを占拠し、各人がサイコロを順番に振って行きました。ミソは全員が常にお互いに同じ目に掛けたのです。違う目に掛ければ、二人が同時に勝つことはできませんから、当然ハウスが着実に上がりを取って行くからです。果たして、私たちは1時間ほどでそのテーブルを「打ち止め」に追い込みました。私たちも、ギャラリーも大喜びでした。綿密な理論武装と最後は運。彼らはトレーダーに必要なそれら2点を正に備えていた訳です。
- 松本 大
- マネックスグループ株式会社 取締役会議長 兼 代表執行役会長、マネックス証券 ファウンダー
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ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社を経て、ゴールドマン・サックス証券会社に勤務。1994年、30歳で当時同社最年少ゼネラル・パートナー(共同経営者)に就任。1999年、ソニー株式会社との共同出資で株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)を設立。2004年にはマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社(現マネックスグループ株式会社)を設立し、以来2023年6月までCEOを務め、現在代表執行役会長。株式会社東京証券取引所の社外取締役を2008年から2013年まで務めたほか、数社の上場企業の社外取締役を歴任。現在、米マスターカードの社外取締役、Human Rights Watchの国際理事会副会長、国際文化会館の評議員も務める。