米国では、雇用統計の年次改定が今夜発表されます。毎月の米雇用統計は、既存の事業所を調査して算出して雇用の動向を調べているため、閉業したり新しく開業した企業のデータが反映されにくいとされます。これを補うため、事業所の開業閉業の動向を「出生・死亡モデル」という手法で推計しています。

もっと直接的に雇用状況を示すデータとして税金関連データがありますが、1200万件以上の事業所の細かいデータであるため、四半期に一度しか開示されません。このため、月次の雇用統計でざっくりした姿を出して、あとから精緻化する。この作業が今回の年次改定です。ちなみに、今回は仮調整で、確定は年明け2月です。長年、この改定作業は淡々と行われていましたが、モデルがちゃんとワークしていて、例年の改定値はせいぜい10~20万人です。一方で、景気減速期には、閉業社数を月次に少なく見積もってしまう傾向があるため、改定時の下方修正幅が大きくなる傾向が指摘されています。近年最大の改定はリーマンショック後の2009年の90万人余り。また、利下げ開始直後の2019年も50万人程度下方修正されました。

今回は、これらと同様か、もしかしたら更に上回る50万人から100万人の下方修正が予想されています。100万人といえば、東京23区の全就業者数が400万人の4分の1が実は存在しなかった、という計算です。これまでの大幅修正の時と異なり、FRBの利下げ判断直前の改定なので、市場も深刻に受け止めるのではと思われます。事前予想から50~60万人程度までは、市場に織り込まれているのではと思いますが、さすがに100万人となると、ヘッドライン効果(報道の見出しが市場心理に影響を与えること)も懸念されそうです。9月の利下げ開始はほぼ既定路線ですが、年内の利下げ回数や初回の利下げ幅の予想値は間違いなく拡大するでしょう。

それにしても、これまで見ていたデータが大きくひっくり返されるというのは、本当に分析者泣かせです。かつて日銀の山口副総裁は、金融政策の難しさを「中央銀行とは、前方の曇った窓ガラスとリア・ミラーと、さらに不正確な速度計を見ながら曲がりくねった道路を走る自動車の運転手のようなもの」と表現しました。そのような危険な運転の方向性を外部から予想するというのは土台無理があるのでは、と思います。改めて、日々のデータで短期的な賭けに出るより、長期的な安定運用を心がけたいと思います。