日銀が政策金利を0.25%に引き上げ。植田日銀総裁、タカ派姿勢を鮮明に

7月31日、日銀は0.1%の政策金利を0.25%に引き上げる追加利上げを決定しました。事前に利上げ観測もあったため大きなサプライズではありませんでしたが、驚いたのが植田総裁の会見でした。

3月の金融政策決定会合でマイナス金利解除を決定した際には、今後の利上げについて「現在、手元にある見通しを前提にすると、急激な上昇というのは避けられるとみている」と述べ、当面は緩和的な金融環境を続ける考えを強調していました。これに市場は安堵し、円キャリートレードを継続させたものと考えられます。3月は日銀が実質利上げを決定したにもかかわらず、米ドル/円相場はむしろ大きく円安方向に動いたのです。

ところが今回の植田総裁の会見では「今回示した経済物価の見通しが実現するなら、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」「政策金利は(2006年からの前回の利上げ局面のピークである)0.5%を意識しない」と発言。継続して利上げするスタンスを強調したのです。

突然タカ派に豹変した植田総裁会見に驚いた市場は、バブル化していた円キャリーポジションの解消に一斉に動きました。低金利である円を借り、高金利である米ドルや株などのリスクアセットに投資して利ざやを抜いてきた投機家らの円キャリー取引の妙味が薄れる、という思惑が円キャリーバブルを崩壊させたのです。

市場の混乱と円キャリーバブルの崩壊、内田副総裁の発言で反転か

8月5日には日経平均はブラックマンデー超えの下落を示現、市場は大混乱となりました。しかし、8月7日に内田日銀副総裁が「当面、現在の水準で金融緩和をしっかりと続ける必要がある」「金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはない」と述べ、植田総裁と全く逆の見解を述べます。これを受けて株式市場、米ドル/円相場は急反発となりましたが、再び円キャリー取引が活発化し、円安のトレンドに回帰するのでしょうか?

わずか1週間で総裁と副総裁が異なるメッセージを発しました。市場は日銀への不信感を高めてしまったように見えます。内田副総裁の「不安定な状況では利上げはしない」発言を「落ち着けば利上げができるということだ」と受け止める向きもあり額面通りには受け止めていないようです。

そもそも、今回日銀がこれほどにタカ派メッセージを打ち出さなくても、米国の景気後退懸念から米金利は急速に低下しており、米ドル/円相場は自然に円高転換したのではないか、との指摘もあります。

すでに財務省が投機的円安進行を看過出来ないとして7月に為替介入を実施しており、米ドル/円はピークアウトしていたところでした。円キャリートレードによる米ドル/円相場の日米金利差との乖離は大幅に修正され、今後は日米金利差との相関も高まっていくと思われます。

日銀が利上げスタンスを打ち出し、その後火消し対応をしたとはいえ、利上げサイクル入りしたという事実は大きく、また米国が利下げサイクルに入ろうとしていることは、投機筋らが再びリスクテイクする環境ではなくなったと考えられます。

米ドル/円相場が再び上昇トレンドに回帰する可能性は大きくないのではないでしょうか。しばらくは142~152円で方向感なくレンジを形成し、米国の利下げが本格化すれば140円割れの円高の可能性も出てくるとみています。しばらくはボラティリティが高い相場が続くと思いますので、資金管理は慎重に行いましょう。