アニマル・ウェルフェア、過去には味の素が直面

世界各国や日本の株主総会シーズンが一段落し、早くも次年以降の注目テーマが様々な場所で議論されている。その1つが、食品業界や製薬業界における、食品廃棄やアニマル・ウェルフェア(動物福祉)、そして脱炭素であるという。


日本では2024年、英国に拠点を置く資産運用会社のナナホシマネジメントが、わかもと製薬(4512)に対し、実験動物の動物別購入頭数の開示を求める株主提案を出した事例があり、多くの金融関係者に知られることとなった。

アニマル・ウェルフェアに関しては、過去に食品大手の味の素(2802)が米国の動物愛護団体のPETAから、動物実験を廃止するようはたらきかけを受けたことが幅広く知られている。PETAは同社の株式を取得したことを公言し、同社との対話を行ったようだ。日本経済新聞の報道によると、PETAは2020年時点では味の素に対して「不要な動物実験の中止を求める」株主提案を計画していたようだ。しかし、実際には、2021年に開催された味の素の年次総会に出席したPETA代表は「動物実験をすべて廃止することを約束するか」 と質問したにとどまったとみられる。

米国の小売業界で先行

米国に目を移すと、食品に関する株主提案の事例は枚挙にいとまがない。また、企業側が対応せざるを得ない水準である2割以上の賛成比率を獲得した株主提案の事例は数多く見られる。

その代表例の1つが教会系の資産運用会社のMercy Investment Services(MIS)がアマゾン・ドットコム[AMZN]に対して出した提案だ。同社の事業で食品の廃棄物に関する情報を報告書形式で開示することを求める内容だ。

MISはアマゾンに対して情報開示を求めるだけでなく、食品廃棄物の原因、量、排出先を調査すること、食品廃棄物を削減した場合に達成できる温室効果ガス排出量を見積もること、食品廃棄物を削減するための目標設定の実現可能性と、これらの目標の達成に向けた進捗状況を評価することを推奨した。

MISによるアマゾンへのはたらきかけは長期間に及び、株主提案は2019年から2年連続で出された。2019年の議案(25.9%の株主が賛成)、2020年の議案(31.7%の株主が賛成)ともに高い賛成比率を獲得した。

責任投資分野で多くの米国企業へのはたらきかけの実績を持つTrillium Asset Managementによる、米国の小売大手ホール・フーズ・マーケットへのキャンペーンも幅広く知られている。この事例も、Mercy Investment Servicesがアマゾンに対して行ったキャンペーンと同様で、2016年から2017年の2年間に表立ってはたらきかけが行われた。2016年は28.1%、2017年は30.3%の賛成比率を獲得している。

そのほか、米国では飲食チェーン店を経営する企業に対して加工食品や遺伝子組み換え食品の使用に関する情報開示を求める議案が出た事例も数多くある。食品廃棄大国の1つとして知られる日本でも、同様のテーマの事例が出ることも考えられる。

日本勢に向かう厳しい目

ナナホシマネジメントがわかもと製薬に提出した株主提案の賛成率は5.3%にとどまったことで、アニマル・ウェルフェアで企業に本格的な圧力がかかるまで時間を要するとの見方もある。しかし、米国最大の株主擁護団体、AsYouSowがまとめたデータによると、米国におけるアニマル・ウェルフェアに関する株主提案は増加傾向にあり、日本企業にも一層関心が向けられる可能性も十分に考えられる。

そして、食品を取り扱う企業はより一層の「脱炭素」への取り組みも求められそうだ。シンガポールに拠点を置き、日本企業にもはたらきかけを行う調査機関のAsia Research & Engagement (ARE) は2023年、日本を含むアジア諸国の食品部門の脱炭素に焦点を当てた報告書を発表している。同報告書によると、日本の畜産業はすでに完全に工業化されているが、1人当たりの肉や魚介類の消費量は過剰気味という。一方で、日本は2021年、大豆(飼料用)の約13%をブラジルから輸入し、森林破壊の一因となっている可能性があるという。この事態を避けるために、産業動物の生産量を早急に減少させ、食品廃棄物を削減し、新たなタンパク質の摂取源を見つけるべきという。

近年、日本でESGに関する株主提案に直面していたのは自動車や鉄鋼業界、電力会社や総合商社、金融機関が中心であった。しかし、今後は食品や製薬を取り扱う企業に対してもさまざまな投資家がはたらきかけを強める可能性がある。