テスラは世界最大のロボットメーカー?「車は4つの車輪がついたロボット」 

イーロン・マスク氏が設立した米ニューラリンク、脳にチップを埋め込む手術を行う

脳をコンピューターとつなぐインターフェイス(BCI)の研究開発を行なっている米ニューラリンクは、人間の脳に小型のチップを埋め込む手術を初めて行ったと明らかにした。ニューラリンクは米テスラ[TSLA]のイーロン・マスク氏が2016年に設立した新興企業である。独自に開発した脳インプラントを人間の患者に適用し、順調に回復していることをイーロン・マスク氏が公式Xへの投稿で明らかにした。

ニューラリンクはFDA(米食品医薬品局)と病院倫理委員会の承認を得て、臨床試験に参加する患者の募集を2023年秋から始めていた。ニューラリンクが公開している臨床試験に関する資料によると、自社開発した手術ロボットを使い、脳の運動意思を司る部位にインプラントを埋め込むと言う。

コインほどの大きさの装置は、いったん埋め込まれると脳の信号を記録し、そのデータを解読用アプリにワイヤレスで送信するように設計されている。対象となるのは頸髄損傷か筋萎縮性側索硬化症(ALS)による四肢まひのある22歳以上の参加者で、臨床試験の完了まで6年かかる見込みだという。

WIREDの1月30日付けの記事「ニューラリンクが人間への脳インプラントを初めて実施、『脳とコンピューターの接続』における重要なマイルストーンになる」によると、ニューラリンクの患者がBCIを装着した最初の人間というわけでは決してなく、これまで世界中で数十人の人々が調査研究の一環としてBCIを装着してきたという。

最近までBCIは、主に大学の研究室によって開発が進められており、それらの装置は太いケーブルを使った不格好なセットアップが必要なもので、家庭での使用は現実的ではなかった。これに対してニューラリンクのシステムはワイヤレス設計になっており、人間の毛髪より細い64本の糸に分散して取り付けられた1000個以上の電極を通して神経活動を記録するとしている。

ウォール・ストリート・ジャーナルの2月1日付けの記事「脳内チップとテスラ高額報酬問題、マスク氏の明暗」は、AIが人間の知性と同じかそれ以上に強力な存在になるという恐るべき未来の世界では、AIと脳内コンピューターの二つはつながっているとマスク氏は見ており、同社の開発が成功すれば、マスク氏が「共生」(連携作用)と呼ぶものを通じて、人間は機械についていく能力を獲得し、迅速にアイデアを出し合い、うまくいけば機械の力を制御することができるようになると指摘している。

テスラは人間汎用ロボット「オプティマス」の開発も進める

マスク氏は何年も前から、テスラが最も先進的なAI開発企業の一つだとの見方を示してきた。テスラは自動運転車のほか、より最近では「オプティマス」という名の人型汎用(はんよう)ロボットを開発している。同氏は2023年11月、「ニューラリンクとオプティマスの組み合わせにより、素晴らしい人工四肢が実現される可能性を秘めている」とXに投稿したことを取り上げている。

1月24日の決算発表後に開催された投資家とのアーニングス・コールの中で、議決権比率が25%程度なければ、テスラでAIやロボット工学を拡大することに反対すると述べた理由について尋ねられたマスク氏は次のように語っている。

私が懸念しているのは、人工知能とロボットを作ることは人間を滅ぼすほどの莫大な能力とパワーを持つ巨大企業を作り上げることに等しいと考えている。それをコントロールしたいとは思わないが、もしその段階で自分が会社に対する影響力が無くなっているとすると、ある種の無作為によって追放されてしまうかもしれない。

私は経済的な付加価値を求めているのではなく、強力なテクノロジーを効果的に管理したいだけなのです。25%程度としたのは、その程度であれば、もし私がおかしくなっても会社をコントロールできるほどではありません。しかし、私が強い影響力を持つには十分です。私が目指しているのは、強い影響力を持つことであって、支配することではないのです。

オプティマスは明らかに新製品であり、極めて革命的な製品です。テスラの他のすべての製品価値をはるかに上回る可能性を秘めていると思います。経済について考えるとき、経済とは一人当たりの生産性を換算したものです。しかし、もし人口に限界がないとしたらどうでしょう?

経済に限界はありません。そして自動車のために開発されたAI技術は、ヒューマノイド・ロボットにも十分に応用できます。なぜなら車は4つの車輪がついたロボットだからです。テスラは間違いなく、すでに世界最大のロボットメーカーです。オプティマスは、腕と脚を持つヒューマノイド・ロボットです。世界で開発されているヒューマノイド・ロボットの中で最も洗練されています。来年には何台かのオプティマスを出荷できるでしょう。

一般的な作業ができ、中程度の専門的な作業をこなすという点ではすでにそれが可能で、1年経つごとにさらに良くなっていくでしょう。車の技術が向上すると同時に、オプティマスの技術も向上します。車に搭載されているのと同じAI推論コンピューターが稼働し、同じトレーニング技術が使われています。つまり、私たちは本当に未来を作っているのです。

営業利益率が急低下、テスラは成長の踊り場を迎えたのか?

テスラ(TSLA)が1月24日に発表した2023年10-12月期決算を振り返っておこう。売上高は前年同期比3%増の251億6700万ドル、純利益は一時的な税関連利益の計上により79億2800万ドルとなり、前年同期比2倍超となった。

【図表1】テスラの売上高と純利益の推移
出所:決算資料より筆者作成

今回の決算で懸念されたのは、営業利益の低下である。営業利益は20億6400万ドルと、前年同期に比べ47%減少、4四半期連続の営業減益となった。大きな要因は2つ。一つは値下げによる採算悪化の影響を受けていること、もう一つは新型車「サイバートラック」の量産に難航していることも重荷になっている現状が示された。

テスラは2022年秋以降、販売水準を維持するため主力市場の米国や中国で値下げを断行してきた。他メーカー、特に中国メーカーとの競争が激化しており、値下げの「負の側面」である採算悪化が現れた形だ。

【図表2】テスラの営業利益率の推移
出所:決算資料より筆者作成

値下げの影響で、今四半期(2023年10-12月期)の営業利益率は8.2%となり、前年同期の16%から7.8ポイント低下した。前の期(2023年7-9月期、7.6%)からは改善したが、ピークだった2022年1-3月期の19.2%と比較するとその半分以下の水準だ。

2024年1月25日付けの日本経済新聞の記事「踊り場迎えたテスラ EV市場の成長減速、BYDにも後手」は次のように指摘している。

テスラの稼ぐ力の低下は、EV市場の構造的な変化を映し出している。筆頭は中国勢の台頭だ。特に2023年10-12月期のEV世界販売でテスラから最大手の座を奪ったBYDが攻勢に出ている。一貫しない価格戦略の背景にあるのが、BYDを筆頭とする中国勢の絶え間ない低価格攻勢だ。EV市場を切り開いたテスラだが、中国では追随的な価格引き下げを強いられている。新車販売に占めるEV比率が約2割となった中国市場では、価格主導権を握る「プライスリーダー」ではなくなりつつある。

テスラは自動運転ソフトウェアのプラットフォーマーとなる可能性、株価2000ドルも夢ではない?

テスラの株価、2030年までに1200ドルに達するとの予想も

ブルームバーグの2024年1月27日付けの記事「テスラ株いずれ1200ドルに到達へ、急落でも強気のファンドマネジャー」によると、バロン・フォーカスド・グロース・ファンドのファンドマネジャーであるデビッド・バロン氏は、テスラがやや足踏みした後に再び驚異的な値上がりを見せると見込んでいると伝えている。
  
バロン氏はインタビューで「会社が考えていたような年間50%の成長は実現できないかもしれないが、厳しい環境にある今年に販売台数がなお年15-20%のペースで伸びつつあり、1台当たり7000ドルの粗利益を上げている」と指摘、テスラの強力なブランド力を理由に、株価は2030年までに現在の水準から約550%上昇し、1200ドルに達すると予想している。

キャシー・ウッド氏は2027年のテスラの株価予想を2000ドルに

テスラに対する強気姿勢を崩していない運用者がもう一人いる。アークのキャシー・ウッド氏である。ウッド氏は2023年を通じてテスラ株を売却していたが、2024年になり主要なファンドでテスラ株の購入を再開している。アークはテスラについて、2027年の株価予想を2000ドルとしており、強気の場合は2500ドル、弱気の場合は1400ドルと想定している。

【図表3】テスラのキャッシュフロー
出所:決算資料より筆者作成
【図表4】テスラの現金保有額
出所:決算資料より筆者作成

筆者は今回の決算において、営業利益率の低下よりもキャッシュに注目した。莫大な設備投資を行なっているにもかかわらず、営業キャッシュフロー、フリーキャッシュフローともに高い水準を維持している。再びアーニングス・コールの中でのマスク氏の発言を引用してみよう。

2023年のキャッシュフローは、将来のプロジェクトに対する支出が記録的だったにもかかわらず、約44億ドルと好調を維持しています。つまり、過去最高の設備投資、費用、そして過去最高の研究開発費があったわけです。これで2024年の成り行きが見えてきました。

2024年には楽しみなことがたくさんあります。テスラは現在、大きな成長の波の間にあります。私たちは、次世代自動車、エネルギー貯蔵、完全自動運転、その他のプロジェクトによる次の成長の波を可能な限りうまく実行することに集中しています。

テスラはAI推論においておそらく世界で最も効率的な企業だと思います。AI推論の効率という点では、私たちは世界のどの企業よりもはるかに進んでいると思います。また、テスラを自動車会社だと考えている人たちが、テスラをAIロボット会社だと考えるようにテスラに対する認識を変えることも重要です。

テスラは2023年、3億ドルにも及ぶAIコンピューティングのクラスターを立ち上げた。エヌビディアのH100 GPUを1万個採用した世界でも有数の高性能なスーパーコンピューターである。この新しいスパコンのクラスターを導入することで、自動運転技術をこれまで以上に早くトレーニングするための計算能力を大幅に強化することになる。このことは、テスラが他の自動車メーカーよりも競争力を高めるだけでなく、世界最速のスーパーコンピューターの1つを所有することを意味している。

イーロン・マスクの事業や投資は「人工知能」に向けた広範な計画の一部

2023年、世界で同時発売された伝記『イーロン・マスク』(文藝春秋)の著者であるアイザックソン氏は、米『Time』誌に寄稿した記事「Inside Elon Musk's Struggle for the Future of AI(AIの未来をめぐるイーロン・マスクの闘いの内幕)」の中で、マスク氏によるさまざまな新興企業への投資や事業は一見バラバラに見えるが、「人工知能(artificial general intelligence)」、つまりAGIに向けた新時代を切り開こうとするマスクの広範な計画の一部であると述べている。

過去10年にわたり、マスク氏は、テスラ、スペースX、ニューラリンク、X社(旧ツイッター社)そしてxAIなど、技術革新の最前線にあるさまざまな企業の経営に携わってきた。X社には長年にわたって投稿された1兆以上のポストがあり、毎日5億件が追加されている。それはいわゆる人類の集合知であり、現実の人間の会話、ニュース、興味、トレンド、議論、専門用語の世界で最もタイムリーなデータセットである。

また、テスラ車の走行を通じて受信した1日あたり1600億フレームのビデオを持っている。それは、現実世界の状況でナビゲートする人間の映像データである。これらは物理的なロボットのためのAIを作成するのに役立つ情報の宝となる。

今後、自動運転ソフトウェアの性能がデータ量とそれを処理するスパコンの性能に依存することになれば、この分野の投資で先行しているテスラの競争優位が確立することになる。このことは、テスラが高性能な自動運転ソフトウェアを提供するプラットフォーマーとなりうる可能性を秘めていることを意味している。

石原順の注目5銘柄

テスラ[TSLA]
出所:トレードステーション
マイクロソフト[MSFT]
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メタ・プラットフォームズ[META]
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アマゾン・ドットコム[AMZN]
出所:トレードステーション
エヌビディア [NVDA]
出所:トレードステーション