◆「水兵リーベ僕の船...」。学生時代にお世話になった方も多いだろう。元素の周期表を暗記する語呂合わせである。その原子番号1番、水素がいまブームになっている。クリーンエネルギーの水素を燃料とする燃料電池自動車(FCV)が株式市場の材料となり、水素ステーションを手掛ける三菱化工機の株価は2日間で6割も急騰した。
◆「人並みにおごれや」。こちらは「ルート3(3の平方根)」の語呂合わせ。1.7320508...である。日本生産性本部などが今春の新入社員を対象に実施したアンケートで、「人並みに働けば十分」と答えた人が昨年より4ポイント増え、53%に上ったという。「終身雇用が崩れ、会社のために頑張っても見返りがはっきりしない」との意識が「ほどほど志向」につながったと調査担当者は語る。
◆これをもって「今年の新人はほどほど志向」と決めつけるのはどうだろう。「人並みに働けば十分」と答えた人が5割超というか約半数だ。残り半数近くの人は「人並み以上に働きたい」と答えている。このくらいの比率でちょうど良いのではないか。逆に、新入社員のほとんどが「人並み以上に働きたい」とガツガツ、ギラギラしていては、それはそれでどこかゆとりのない世情に思える。「人並みでいい」「人並み以上」その比率がほぼ半数というのは、案外、心地よいバランスではないか。
◆人並み以上に頑張るのも、人並みで良しとして淡々と仕事をするのも、いろいろな働き方があっていい。そういう若者のワーク・ライフ・バランスの柔軟さがイノベーティブな社会を生む根底となる。自動車の燃料もガソリンから電気、水素と多様化を目指す時代だ。仕事に対する姿勢も社会全体としてハイブリッドであるべきだろう。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆